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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

北の里、フラッグスタッフの昔と今(5)
 論争の的、スノーボウル

2005年8月号
論争の的、スノーボウル

 

 夏の避暑地、冬のスキー・リゾートと観光客が年間を通して訪れるフラッグスタッフ。一見敬和でのどかな町のように見えるこの地域にも、激しい争議が沸き上がっている。フラッグスタッフの大きな収入源、アリゾナ・スノーボウルの開発を巡って、アメリカ・インディアン達が反対運動に立ち上がった。

 全米の新聞でも頻繁に扱われている連邦政府 vs.ネイティブ・アメリカンの問題。

 今月はこの論争の的となっているスノーボウルを訪れてみよう。

 

 

フラッグスタッフのスキー・リゾート、
アリゾナ・スノーボウル

 1938 年にスキーを楽しむ若い男性のグループ、20-30クラブが発足した。彼等は、地域で楽しめるスキーのコンテストを企画した。その場所に選ばれたのが現在のスノーボウルの地だった。
 このコンテストに興味を持ったのが連邦森林局だった。森林局は安全なスキー場を建設することに決め、翌年と翌々年の夏に工事にとりかかり、正式なスキー場が誕生した。と言っても道路と小さなロッジという小規模な出発だった。
 その後、アリゾナの人口増加にともない、フェニックスなどから近距離なスキー・リゾートとして人気を集め、着実に発展してきた。また、何よりもスノーボウルはフラッグスタッフにとって貴重な収入源となってきた。

アメリカ・インディアンの反対運動

 サンフランシスコ・ピークは、古代の昔からその地に住むアメリカ・インディアンにとって聖なる山であった。この聖なる地にスキー場ができ、リゾート開発が進む。これは、アメリカ・インディアンの人達にとって許せない犯罪行為と映った。
 1978 年、ナバホとホピの2族が当時企画されていたスノーボウル開発計画に反対意見を表明。しかし、翌年、彼等の意見と感情は無視された形となり、連邦森林局は新たなロッジと4つのリフトの追加、そして50 エーカーのスキー・トレイルを開発する企画を承認した。
 アメリカ・インディアンは連邦政府とスキー・リゾートを相手に訴訟を起こしたが、連邦政府所有の土地での開発は合法であると却下される。これに対し、アメリカ・インディアンは宗教の権利を主張してアピールしたが、1983 年スキー場開発に味方する判決がおりる。
 スキー場をめぐる争いはさらに続いた。
 
 1998 年、スノーボウルの拡張計画が発表されると、ナバホ国家評議会は、その計画に反対するだけでなく、スキー場の全てを排除するよう決議案を提出した。
 そして本年、スノーボウルの論争は全米の注目を浴びるほどになった。3月にココニノ国定公園がスノーボウルで人工の雪を作ることを承認したからだ。北アリゾナに降る降雪量がその年によってまちまちで、雪が余り降らないとスキー場をオープンできない。これはフラッグスタッフのビジネスに大打撃を与えることになる。こうした背景で出き上がった妙案が、人工雪だった。この人工雪は、フラッグスタッフの下水管に入った廃水を再利用して”製造”されるものだ。
 この案が連邦政府によって承認されたことを知ったアメリカ・インディアン達は憤慨にいきり立った。ナバホ、ホピ、そしてパイ族などが一致団結して、反対運動に立ち上がった。「聖なる山サンフランシスコ・ピークに廃水で作った雪を降らせるなど、聖書をトイレに捨てるようなものではないか」「連邦政府はネイティブ・アメリカンの請願を完璧に無視している」と怒りをぶつけてた。

根本的な発想の違い

 アメリカ・インディアンが抱えてきたアメリカ政府のインディアン政策に対する憤り。西洋人の無理解。経済優勢で突き進むアメリカ文化、、、など軋轢の原因は明らかだ。しかし、ここで
よく理解しなければならないのは、両者の根本的な発想の違いだ。とりわけ土地に対する考え方が全く異なるのだ。
 アメリカ・インディアンにとって土地は所有する物ではない。土地は生き物であり、そこに生息する人間を含めた一切の動植物を育んでくれる畏敬の対象である。土地と人間はお互いに助け合い育み合う関係にある。ほとんどのアメリカ・インディアンの種族は、この世のあらゆるものが精神的に緊密な関係にあり、肉体的あるいは表面的にある時は人間として現れたり、動物として現れたり、草木として現れたりすると信じる。土地も同じだ。従って、土地を尊敬し大切に扱うことが人間の責務とされる。その畏敬と感謝の念を山や岩や川に伝え、動物や草木に伝えるために様々な儀式が行われる。
 一方、西洋の基本的な考え方は、人間と非人間との間に境界線が引かれる二元論だ。自然を征服していくなかで突き進んできた西洋文明の目から見ると、土地の開発は当然のことであ
り、そこに論議をぶつけるのは理解の範疇を超えることとして映る。
 この相違に両者が理解を示し、対話を通して共存できれば良かったが、残念ながらアメリカの歴史は連邦政府の力づくによるごり押しで進んできたことを否めない。

「サンフランシスコ・ピークは聖なる山」とは

 ナバホ族は、サンフランシスコ・ピークに行き宗教儀式を行う。そして、そこに生息する薬草を集める。この薬草はメディスマンが病人を呪術で治す時に使われる。彼等にとってサンフラ
ンシスコ・ピークでの土地開発は薬草のいやしの力を弱め、大きな損害であると見る。
 ナバホ族には彼等特有の創世の話がある。その神話に登場する様々な神々がサンフランシスコ・ピークに住んでいると信じられている。ナバホが夜、自分たちの生命の維持を祈るイエロー・コーン・ガール(黄トウモロコシ少女)もその一つだ。
 一方、ホピ族には、カチーナという精霊がいる。カチーナは日本ではカチーナドールという人形が人気商品としてよく出回っている。ホピによると、カチーナは、8月の初旬から11月までサンフランシスコ・ピークに住んでいる。12 月になるとサンフランシスコ・ピークから下りてきて、ホピの村々を訪れキバと呼ばれる地中に掘った部屋に来て、様々な踊りを営む。この踊りでカチーナはホピの健康、幸福、豊作を祈る。そして7月末になると、再びサンフランシスコ・ピークに戻っていく。ホピは、サンフランシスコ・ピークに住むカチーナが夏の雨と冬の雪をもたらすと信じている。ナバホと同様、ホピもサンフランシスコ・ピークに定期的に登り、儀式のための小動物、薬草などを採集する。


 このように、とりわけナバホとホピ族にとってサンフランシスコ・ピークは彼等の生存の命運を左右する山であり、神聖にして犯すことができない畏敬の地となってきた。30 万人のナバホ族を擁するナバホ・ネーションの大統領、ジョー・シャーリーは、「この山で起こっていることをアメリカ政府が容認しているなんて、全く吐き気を催すほど憤慨している。」と述べ、「この件には断固として挑戦する。議会に詰め寄り、決して最後まであきらめない。」と強行な姿勢を貫こうとしている。
 アリゾナでの生活にアメリカ・インディアンの存在は決して無視することはできない。これまでのように政治の力で押しつぶすか、妥協策を提供するか。今後の成り行きをしっかり見守る義務がアリゾナにはある。

   
 
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