このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。
グランド・キャニオンのすべて(2)
2000年9月号
先月に続いて、グランド・キャニオンの不思議に挑戦してみよう。グランド・キャニオンは地質学的に大変貴重な研究材料がそろっている宝庫だ。 その宝探しが今月の課題だ。 |
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グランド・キャニオンは、途方のない長い時間と想像を超える自然の力によって形作られてきた。この場所が、海の中にあった時代から陸の時代へ。その陸の大地が何本もの川によって削られていき、ある時は、大地震で捻じ曲げられてきた。こうした大変動の時期は、何と約40億年も前に遡る。 グランド・キャニオンほど大地の形成を研究するのに格好な場所はないというのが専門家の言だ。それは、キャニオンのリムから底までの間に、この地上でどこにも見ることができない地層の歴史が展示されているからだ。古生代の地層を持つリムから先カンブリア代の地層が見えるキャニオンの底まで、20億年もの地球の生い立ちを物語る資料が整っているのだ。 |
地質学上の地球の歴史 |
地質学者は、地球の歴史を次の段階に分けている。 先カンブリア代:最古の地質時代で、5億5千万年前に終えている。 古生代:5億5千万年前から2億年前まで 中生代:2億年前から7千万年前まで 新生代:7千万年前から今日まで |
グランド・キャニオンは、堆積・隆起・侵食のサイクルを3回繰り返してきたと言われる。現在の地層は、初期の堆積のもので、中生代、新生代の新しい地層が見当たらない。つまり、現在から2億5千万年前の期間は、堆積(地層が積み重なる)時代ではなく、隆起と侵食の時代であったことがわかる。 ![]() |
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グランド・キャニオンの地層 |
ヴィシュヌ(Vishnu)とゾロアスター(Zoroaster)グランド・キャニオンで最も古い地層は、コロラド川が流れる底の周辺で見つけることができる。まず、約20億年前に、火山活動で吹き出た火山灰などが海底に沈殿し、地層ができた。そして、17億年前にプレートと呼ばれる巨大な岩盤が衝突し、高熱の高圧力が生まれ、それが沈殿していた地層を変形させた。これがビシュヌ片岩と呼ばれるものだ。ビシュヌの名前は、インズー教の神から付けられたようだ。 そして、15億年前にマグマがこの地層に入り込んだ。そして地層がマグマによって押し上げられ、花崗岩ができる。これをゾロアスター花崗岩と呼ぶ。ゾロアスターとは、古代ペルシャのゾロアスター教の創始者で、その名前を使った。 この二つの地層が極めて硬く、コロラド川から侵食される速度が他の地層に比べて遅い。 グランド・キャニオン・スーパーグループ約12億年前の地層で大変厚い層だ。やや傾斜しているので、他の地層との区別が簡単にできる。 大不整合グランド・キャニオン・スーパーグループと次の地層との間にギャップがある。約8億から5億7千万年前の間の地層が侵食されて消滅してしまい、より新しい時代の地層がその上を覆っている。 古生代の地層の始まりこの不整合の上に古生代の地層が重なり合っている。古生代は、生物が海中に誕生し、進化発展する時代だ。したがって、海中にいた生物の化石でその時代を識別できる。この古生代は、北米大陸がアフリカやヨーロッパ大陸と陸続きだった。これをパンゲアと呼んでいる。 カンブリア紀古生代の最初の時代がカンブリア紀である。約5億7千万年前、カンブリア紀の海水が西側から東側に浸水し、海中に海綿、腕足類、軟体動物、サンゴ、ウミユリ、三葉虫などが生息し始める。その時代に3つの層が形成された。それは、テーピーツ石灰岩、ブライト・エンジェル泥板岩、ムアヴ石灰岩と呼ばれる。 テンプル・ビュート石灰岩その後、海は少しづつ姿を消し始め、陸が現れてきた。オルドビス紀、デボン紀という期間に陸地の侵食が始まった。デボン紀に生息していたと見られる魚の化石がグランド・キャニオンで発見されている。 レッドウォールその後、ミシシーピ紀(3億3千万年前)にレッドウォール石灰岩が堆積され、厚いガッチリした灰色の石灰岩に赤い表面をした地層が出来上がった。 |
グランド・キャニオンの生成 |
この地にこうした地層が形成されていたが、実際にグランド・キャニオンの生成はもっと新しいのだ。 第三紀(新生代の初期)になると人類以外の哺乳類が出現する。これは、およそ6600万年前から258万年前までの時代だ。この中期くらいからコロラド川がユタ、アリゾナに流れ始めた。 そして、200万年前、氷河期に雨量が急増し、ロッキー山脈からの雪解け水が増え、コロラド川が増水する。こうして、この水は、中生代に堆積した岩を削りとり、カイバブ層を切り開き始める。コロラド川の流れた方向などには、いろんな学説があるが、この200万年で現在のキャニオンが形成された。 過去100万年の間、キャニオン周辺では、火山活動が何回も起こり、その度に溶岩がキャニオンの中に注ぎ込んだ。時には、コロラド川を堰き止め、ダムを形成したこともあった。 1964年にグレン・キャニオン・ダムが建設される以前は、コロラド川の流れは激しく、水が岩に当たる音が、リムの上にいる人間にも聞こえたという程だった。ダム建設後、流れは緩やかになったと言っても、依然、この川は地面を削って流れている。 |
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