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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

グランド・キャニオンのすべて(4)

2000年11月号

 今回がグランド・キャニオン特集の最終回。 グランド・キャニオンの環境保護を考え、その後ノース・リムまで足を伸ばしてみよう。

 

 グランド・キャニオンには、汚染された空気が外から流れこみ、大気汚染が課題となりつつある。近年の自然環境の変化や、観光客による汚染が拍車をかけている。1996年、グランド・キャニオン視界向上委員会は、コロラド高原一帯の広範囲な視界の向上を目指して、包括的な実施提案を出した。

 ターゲットとなるのは、自動車の排気ガス、キャンプファイヤー、観光客が捨てるゴミ、観光用の空を飛ぶ飛行機やヘリコプターの騒音など、そのほとんどは人間がもたらす汚染行為である。

 世界に一つしかないこの大キャニオンを、連邦政府、ネイティブ・アメリカン部族政府、環境保護団体、ボランティアなどが守り、市民と一体となった公園保護の運動が不可欠となる。

   

 観光化がかなり進んでいるサウス・リムに比べ、ノース・リムは、はるかに静かである。交通の便がサウス・リムよりは良くなく、また、冬場は雪のために道路が閉鎖され、ノース・リムには入ることができない。

 しかし、ノース・リムこそ本当のグランド・キャニオンをゆっくりと満喫できる場所である。まず、鹿の数が多い。リスもいるが、サウス・リムのリスは人間に慣れきってしまっている。ノース・リムのリスは、野生そのものの姿を見せてくれる。

 また、ノース・リムの入り口にいく途中の車道には、広々と広がるカイバブ高原に澄み切った青空がそれを包み込むように、壮大なる自然美を見せてくれる。サウス・リムより標高が高いこともあって、白樺林の美も目を和ませるようだ。

 カイバブ高原は、グランド・キャニオンのノース・リムの北部に広がる高原で、多くの野生の鹿が生息している。

 ここの鹿の数が急速に増加した時代があった。それは、1920年代のことだ。高原の生態系が大きな変化をしていることが顕著だった。一体何が起こっていたのだろうか。

 それは、鹿を食べる肉食動物が激減したからだった。これも人間の行いが原因となった。当時、この高原に多くの人が入植し、牧場を開いた。統計では、1890代後半に、カイバブ高原で羊が20万頭以上、牛が2万頭以上、馬が3千頭以上放牧されていた。この数は、当時の鹿の数をはるかに上回るものだった。

 牧場主は、自分たちの家畜を守らなければならない。とりわけ、狼やコヨーテなどは最大の敵だった。そして、連邦政府はその牧場主を保護するために、家畜を襲う肉食動物を次々と殺すことにした。雇われたハンター達は、約20年の間に、コヨーテを3,024匹、マウンテンライオンを674匹、狼を21匹殺したという記録が残っている。それ以外に、カイバブ高原に隣接する各所でも同様なハンティングが行われた。

 さて、鹿の方だが、鹿にとっては、こうした敵がいなくなって、急激に人口?増加をする。1906年には4,000頭いた鹿だが、1924年には、100,000頭という数にまで増えていたのだ。

 さて、悲劇がやってきた。1924年の夏に、カイバブ高原における降雨量がゼロとなった。干ばつである。そこで、草が枯れる。そして、鹿の食料がなくなってしまった。こうして、高原全体の鹿の4分の3が死に絶えてしまった。そして、1930年には、鹿の数は、10,000頭にまで減少したのだ。

 これを見た人間は何をしたか。政府は鹿の救命に乗り出した。そして、鹿をカイバブ高原から追い出し、もっと食料が豊富なサウス・リムに移動させよとしたのだ。多くの人間がカイバブ高原で空き缶やバケツを叩いて鹿を脅し、サウス・リムの方向に追っていく。ところが、鹿たちは、人間と人間の間をくぐり抜けて、元のカイバブ高原に戻ってしまうのだ。こうして、この作業は大失敗に終わる。

 この頃、生物学者たちが、人間の手による肉食動物の殺りくは、生態系のバランスを破壊し、その結果でカイバブ高原の鹿の数が急増したという報告を行った。

 さて、今度は鹿の数が増えたのを人間が減らそうとしたこともある。1945年にあまりにも増加する鹿を狩猟して殺すことで、その数をコントロールしようとした。こうして21,000頭の鹿を12,000頭にした。

 このように人間が生態系に手を出して、自然を支配しようとすることが何回も行われてきた。

 学者の間では、議論が続いたが、結論として、カイバブ高原に牧場を作ったのがそもそも誤りだったと指摘する学者が多い。そして、高原に住む肉食動物をハンティングしたのも、次の誤りとなった。

 まず、プレーリードッグ。グランド・キャニオンには多く繁殖していたが、今ではほとんど見ることがない。プレーリードッグは、リス科の小さな動物で、フェニックスでもよく見かける。地面に穴を掘り、すみかとする。

 牧場がカイバブ高原にできると、このプレーリードッグが掘る穴が牧畜の邪魔になるということで、牧場主は、穴の中に毒物を入れ、殺してしまった。

 プレーリードッグがいなくなると、このプレーリードッグを食料としていた白イタチも食料不足で、絶滅の危機にさらされている。

 レイヨウ(アンテロープ)もその数を激減させた。レイヨウは放牧している家畜と同じものを食べる。牧場ができ、家畜が彼らの食料を食べることで、レイヨウが食料不足となり、数を減らしてしまった。

 オオツノヒツジは、家畜が持つ病原菌から病気になり、数を激減させた。

 その他、ハイイログマ、狼、ジャガーなどはカイバブ高原から姿を消した。

   
 
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