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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

生き残ったゴーストタウン、ジェローム(2)

2005年2月号

 古代から鉱石が採掘されていたこの地、ジェローム。アリゾナ鉱山と運命をともにし、人間の様々な執念が交錯し、今でも男達の歌声と怒声が聞こえてきそうなゴーストタウン。

 先月に続いて今月もジェロームの歴史を追いながら、この小さな町を歩いてみよう。

 

   
 ウイリアム・クラーク

 1885年、モンタナ州の実業家で上院議員のウイリアム・クラークがジェロームの鉱脈に目を付けた。それから3年後の1888年には、本格的な資本投資を行い、ジェロームは活気付いた。それから間も無く、新たな鉱脈も見つかり、銅産業は潤い始めた。クラークが投資した企業は、ユナイテッド・バーデという銅産業者で、クラークは、大量の株を買い込み、多額を注ぎ込んだ。こうして、このユナイテッド・バーデ者は、世界一富んだ銅産企業にのし上がった。銅の価格は着実にのび、銅の輸送に欠かせない鉄道線路も拡張された。

 こんな調子なので、 ちょっとした火の不始末で火事が起こる。ジェロームは、1894年、1897年、1898年、1899年と4回も大火に見舞われた。それでも、焼き後にまたテントができ、目まぐるしく町が走っていた。

 こうしたブームに乗って、クラークは、ジェロームに当時では州最大の石造りのホテルを建設した。1900年に完成したモンタナ・ホテルと呼ばれるこの宿泊施設には、毎日1000人もの男たちが宿泊し、鉱山に通った。  

   
20世紀のジェローム

ジェームズ・ダグラス 

 1900年、ダグラスは、ジェロームに来て、 クレオパトラ山の一部が割れ、約1マイル半もしたにずれ落ちていることに気がついた。彼は、その断層を研究した。その結果、これは、約5千万年前のカンブリア紀のものであることが確認された。断層の上層部は、表面に出ているので、発掘は簡単だ。しかし、下層部に鉱石が存在しているので、そこまでたどり着くのは大変な仕事であることがわかった。

 そこで、ダグラスは、 持ち前の頑固な性格と仕事への執念で、巨大な溶岩を掘り続け、ついに下にある鉱脈まで辿り着いたのだ。これを見ていた周囲の人々は、ダグラスを「ローハイド・ジミー」と呼んだ。「ローハイド」とは、荒々しい西部開拓のカウボーイを意味し、「ジミー」は、ジェームズの愛称だ。彼が開いた鉱山は、「リトル・デイジー」と呼ばれた。

 

クラークデールの誕生

 

 一方、クラークは、ユナイテッド・バーデで採掘に四苦八苦していた。鉱脈に向かって掘って作ったトンネルの内部で発火事故が起きたりして、作業は困難を極めていた。そこで、新しい採掘システムが必要となり、これまでと全く違う新方式が生み出された。これは、後に「オープン・ビット」方式と呼ばれる近代的な採掘方法に発展した。

 精錬工場もこれまでの丘の上でなく、平地に大型で高性能の機会を設置して新たにオープンした。この新しい精錬工場ができた平地が、町となり、クラークデールとなった。クラークデールとは、クラークの町という意味。この町が整備され、町制が制定されたのは、1923年。

   

第一次世界大戦 

 

 1915年までにはジョエオームの人口は2,500人までになっていた。まもなく、ヨーロッパで突然、戦争が勃発した。これが第一次世界大戦だ。この戦争は、銅の需要を高め、ジェロームの景気に拍車がかかった。その上、クレオパトラ・ヒルに新たな鉱脈が見つかり、銅の生産が急上昇したのだ。また、クラークデールの精錬工場の新方式が成功し、株価がウナギ登りに伸びた。

 急速な繁栄の陰には、必ず擬戦車がで得るのだ。こうした活気が高鳴る鉱山であったが、労働者の間には劣悪な労働条件などで不満が鬱積し、労働組合がストライキを組織した。 

 当時、アリゾナで採掘に携わった人々は、アメリカ人のみならず、スラブ人、メキシコ人、イタリア人、中国人など多種多様な国籍、人種がひしめき合って住んでいた。外国人やマイノリティーへの差別は顕著だった。

 1917年には、 アリゾナ南部の銅山、ビスビー、ツームストン、そして、ここジェロームでストライキが連続的に起こった。

 ついに悲劇に日がやってきた。その日は、7月10日。武装した一団が労働組合の幹部、活動家の家の一斉に包囲した。彼らは、次々と組合員を貨物列車にひきずり入れた。 この武装グループは、銅山のオーナー、経営者側が組織した男たちだった。組合幹部らを乗せた貨車は、汽車でアリゾナ北部のキングマン付近まで走った。貨車から下ろされた彼らは、銃をつきつられて「命が欲しければ二度とジェロームに戻るな」と警告された。そして、そのまま砂漠の荒野に放り出されたのである。この事件を「ジェローム強制追放」と呼ぶ。まさに、ワイルドウエストの話だ。同時期に似たような強制追放がビスビーでも起こった。

 
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