このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。
人口統計が語る未来のアメリカの顔
2016年7月号
移民の国、アメリカ合州国。選挙になると、必ず議論の的となるのが、この移民政策である。とりわけ、2001年の9・11同時多発テロ事件以来、米国の移民規制が実に厳しくなってきた。 |
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本年5月3日。フェニックスのビルトモア・ホテルのボールルームに200名弱のアジア系アメリカ人が集った。この会合は、アジアン商工会議所主催の朝食会だった。この会合の登壇者の一人、オリバス博士が、興味深い研究発表を行った。オリバス博士は、アリゾナ州立大学の名誉教授。
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米国内で増え続けるアジア系人口 |
全米で10年毎に世論調査が行われてきた。そして2010年の世論調査によると、米国内で人種別による人口増加率が最も高いのは、アジア系であることがわかった。 |
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移民による人口増加 |
人口増加を支えている要因がいくつかある。まず、その一つである移民の増加を見てみよう。2014年の米国移民数は、4,220万人。これは、全米総人口の13.2%に当たる。過去にさかのぼって、1960年を見ると、米国在住移民数は、970万人で、全米総人口のたった5.4%でしかなかった。つまり、アメリカは、年々、外国からの移民を受け入れ、今では、1割以上が移民という統計が出ている。また、州によってもこの割合がまちまちだが、一番移民人口率が多いのがカリフォルニア州で27%。次がニューヨーク州の22.6%。アリゾナ州は、13.7%で全米平均よりやや上にある。 |
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移民層の変化 |
1960年の調査では、外国で生まれた米国移民のほとんどがヨーロッパ系で占められている。当時は、冷戦で世界が共産圏と自由圏に分かれ、ソ連の強い影響下にあった共産国からアメリカに移民してくる人たちが多かったのも一つの要因と言える。ところが、1980年代からヨーロッパ系の移民が減少し始め、それに変わってアジア系と中南米からのヒスパニック系が増加し始める。とりわけアジア系は、ベトナム戦争の終結による共産政権の台頭で、ベトナム、ラオス、カンボジアから多くの難民がアメリカに移住してきた。近年は、アジア諸国が経済力を強めた影響か、学生、エンジニア、医師、事業家など全く異なった移民層がアメリカに出現しつつある。 |
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マイノリティーの間で伸びる出生率 |
アメリカのいわゆる多数派(マジョリティー)は、白人だが、それ以外の人種、つまり少数派(マイノリティー)の出生率が伸びている。統計では、1993年にマイノリティーの新生児を持つ母親は、全米の18%だったが、2014年には、47%となっている。 |
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アメリカで増える異人種間の結婚 |
ピュー研究所の調査によると、2010年の時点で、白人の9%は、他人種と結婚している。これは、10年前の1980年の調査結果から3倍の増加という。さらに、2009年の調べでは、29%の白人が、白人以外の人種が自分の家族の中にいると答えている。この傾向は、今後さらに進み、米国内で、他人種間の結婚が多くなり、将来、これまでの単純な人種別統計は不可能に近くなる。 |
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白人の人口変化 |
近年顕著になっているアメリカの白人の人口変化は、低い出生率に起因している。しかも、白人の死亡率が出生率より高くなってきているので、人口は確実に減少傾向を示していくことになる。2010年国勢調査によると、新生児から14歳の子供の人口は、白人が全米 65.5%だ。この率が継続的に減少傾向にある。最近の調査によると、新生児から5歳の白人の子供たちは、全米の同年の子供の総数の半分以下になった。したがって、彼らが30代になる2043年には、白人の数は、全米の半分以下となると予測されている。 |
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アジア系移民がヒスパニック系移民を超える日 |
米国のお隣メキシコからの移民は、長い間、増加の傾向を辿ってきた。ところが、2009年から2014年の5年間は、メキシコ移民数がマイナスになり続けている。つまり、メキシコからアメリカに来る人より、アメリカからメキシコに戻る人の数が多くなっていることがわかった。これは、1990年以降顕著になっていた非合法滞在者に対する厳しい制裁がアメリカで行われ、その上、2007年以後の経済不況がその傾向に追い打ちをかけてきた。 |
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アリゾナの人口推移 |
では、アリゾナ州はどんな人口推移を見せているだろうか。2000年の州内総人口は、約510万人だった。10年後の2010年には、約640万人となり、増加率は24.6%を示した。そのうち、73%は白人。29%がヒスパニック。4.1%が黒人。4.8%がネイティブ・アメリカン。そしてアジア系は3.6%。 |
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新世代の台頭 |
過去、アメリカ社会に大きな影響を与えてきた世代をベビーブーマーと呼ぶ。この世代は、1946年から1964年の間に生まれ、米国の経済、政治、社会変動に多大な貢献をなしてきた人たちだ。 |
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変化するアメリカの顔 |
ネックスト・アメリカ(The Next America)という新刊書が発行された。今、全米で注目されている本である。「次のアメリカ」、つまり将来のアメリカ人とアメリカ社会を予測した本だ。著者は、ピュー研究所の上級副社長であるポール・テイラー氏。当著では、アメリカの新たな顔が出現することを予測している。これまでのアメリカのベービーブーマーたちは、一般に白人主流で政治的には保守支持層であった。ところが、新世代は、非白人が主流となり、政治的には、はるかにリベラルア志向である。しかし、こうした新世代の多くは、特定の政党支持に関心が薄く、一般に選挙での投票率は低い。また、宗教的にも、特定の宗教を選ばない傾向が強く、社会的には、主にフェイスブックなどを通して友人とのコミュニケーションを行い、いわゆるソーシャルメディアの中心となる世代層である。また、彼らの結婚観もこれまでよりはるかにオープンだ。新世代の9割が多人種との結婚に対し好意的であり、また、半数以上が同性愛の結婚を支持している。 |
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