このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。
伝説の山、スーパースティション・マウンテン
失われたダッチマン州立公園 (2)
2003年12月号
金鉱をめぐるうわさが絶えない山、スーパスティション・マウンテン。 先月に続いて、今月もその話を追ってみた。 |
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フォート・マクドウェルに来た医者 |
1865年、アブラハム・ソーンという名の軍医がフェニックスの東郊外、フォート・マクドウェルに来た。イリノイ出身の彼は、アリゾナに着くや否や、アリゾナに惚れ込んでしまった。 兵士の治療をしていた彼は、ふと、先住民の人たちにも医療の手を差し伸ばそうと思い立った。彼は、先住民(アパッチ族)の言葉を学び、その文化に溶け込もうと努力を重ねた。当然の事ながら、彼は、地元の先住民から信頼され、「兄弟」とまで呼ばれるような親しい関係ができた。 ある日、アパッチ族の酋長、コチーズがソーンを尋ねた。コチーズ言わく、妊娠している彼の妻が病気で大変なので、診断して欲しいとのことだった。早速、ソーン医師は、コチーズの家を尋ねて診断し、彼女は健康を取り戻した。もちろん、酋長は大喜びで泣いて感謝した。このことは、絶対に忘れないと誓ったのだ。 その後、ソーン医師は、ニューメキシコへの転勤の命を軍隊から受けた。そのことを知ったコチーズは、他の酋長やジェロニモなどにソーンの歓送会をすることを伝え、招待した。その歓送会での席で、コチーズや他の酋長たちがソーンの前に来た。そして、これまでの感謝を込めて、何か贈り物をしたいと言い出した。もう一日ソーンが出発を伸ばせれば、金塊の取れる場所まで案内すると言ったのだ。 これに快諾したソーンは、目隠しされて、長く曲がりくねった道を通り、そして、ある地点に来ると、目隠しを外された。ソーンの目の前にあったのは、小さな峡谷だった。そして、「ここへ!」と手を振って招かれるままに歩いて行くと、何と、そこには今までに見たことのないような金塊が横たわっているではないか。ソーンは、震える手でこの金塊を握ると、再び目隠しをされた。さあ、帰る時間だ。 |
金塊の場所は? |
ソーンは、一体自分がどこに行ったのか見当がつかなかった。しかし、途中、休憩して水を飲むために目隠しが外された。「はてな?」そこで彼が見たのは、見覚えのある風景だった。それは紛れもなく以前見たことがあるスーパースティション・マウンテンだったのだ。 勤務先のニューメキシコに引っ越す直前、彼は、一時休暇を取って、サンフランシスコに住んでいた彼の家族を訪ねた。彼は、サンフランシスコに着くと、早速、アリゾナから持って来た金塊を現金に替えた。その大金を持って家族のもとに戻った彼は、これまで家族が抱えていた全ての借金を返済した。しかも彼の二人の兄弟に多額のキャッシュを与えている。しかし、どうしてこのようなたいkんを掴んだのかと聞かれると、ソーンは、曖昧な返事を繰り返し、誰にも詳細を語ることがなかった。 その後、何年も年を重ねたある日、彼はついにアリゾナの金の話を家族に打ち明けたのだ。言うまでもなく、スーパースティション・マウンテンの伝説は、さらに噂の風に乗って人々の間に広がって行った。 |
失われたオランダ人の金鉱とは? |
「失われたオランダ人の金鉱」は、スーパースティション・マウンテンを背景にした不思議なストーリーである。ここは、州立公園となっており、その名前も「失われたオランダ人(Lost Dutchman)」公園と付けられている。では、何があったのだろうか。 1860年代、ジェイコブ・ワルツと名の採掘技師がアリゾナのウィッケンバーグに来た。人々が語るところでは、彼はオランダ人ということだったが、実は彼はドイツ人だった。 ワルツは、ウィッケンバーグで出会ったアパッチ族の女性、ケン・ティーに一目惚れしてしまった。当時は、白人と先住民との結婚は違法だったが、二人の仲はますます深くなっていった。 後に彼はスーパースティション・マウンテンの近くのメサに引っ越した。そこで家を建て、ケン・ティーと一緒に仲睦まじい生活を始めた。しばらくすると、彼は、メサでもう一人のドイツ人と会う。この二人は意気投合し、一緒に金鉱探しをしようということになった。彼らは、メキシコ国境の町、ノガレスの山々を歩き回って、金鉱を探した。ある日、歩き疲れた二人は、ノガレスの酒場に入り、乾いた喉をビールで潤していた。その酒場の奥の方には、トランプで賭けに興じる男たちの一群があった。 酒とギャンブルの果ては、喧嘩と決まっている。これが当時の西部の常だった。例外なく、この連中もイカサマの有無を巡って言い争いとなった。その結果、一人の男が相手の男から銃で胸を撃たれぶっ倒れた。これを見ていたワルツら二人は、この男を助け出し、この男はかろうじて命をとりとめた。 実は、この男、先月号の話に登場したドン・ミグエルの息子の一人で、やはりミグエルという名前だった。ミグエルは、命の恩人に是非、借りを返したいと言い、実はアリゾナに大きな金鉱があるのを知っていると、話を持ちかけたのだ。ミグエルは、二人がパートナーになってくれれば、その場所を教えようと迫った。 |
金鉱を巡る不幸 |
もちろん、思ってもない話に二人とも間髪入れずに飛び込んだ。そして、ワルツら二人とミグエルは、スーパスティション・マウンテンを目指して北上した。ミグエルは、さすがに鉱山の入り口を覚えていて、シャフトを見つけ、ついに3万ドル相当の金鉱を手に入れたのだ。ミグエルは、その一部を持ってメキシコに帰り、ワルツらは、そこに残って採掘を続けた。 ワルツは、時々、メサの自宅に戻り、ケン・ティーと時間を共にした。ある日、自宅から金鉱に戻ったワルツは、驚愕した。この金鉱にアパッチ族が襲撃を加え、彼の友達は息を引き取っていたのだ。しかも、ワルツが自宅に戻ると、アパッチが自宅を襲撃し、ケン・ティーも殺されてしまう。 ワルツは、完璧に失望し、フェニックスに引っ越して一人で生活を始めた。彼は、他人との接触を避け、酒場で湯水のように金を使って泥酔いになる毎日を送った。周囲の人たちからワルツは怪訝な目で見られたようだ。と言うのは、時々数週間留守をし、帰ってくると酒場に入り浸りになっているからだ。フェニックスの人々の中には、「年老いたオランダ人」がどこかに金鉱の場所を知っているかもしれない、などと噂が流れ始めた。 |
ワルツの最期 |
そして、1891年、予期せぬ不幸が彼を襲う。ソルトリバーが氾濫してワルツの家が流されてしまったのだ。彼は、急流に飲まれながら、裏庭の大木につかまってよじ登って、かろうじて助かった。もう83才になっていた彼は、家も失い、独り身の惨めな老人となってしまった。そのワルツを助けた女性が現れ、彼女の自宅で療養をすることができた。ジュリア・トーマスという名のこの女性は、身寄りのない彼を看病したが、数ヶ月後にワルツは、肺炎を患い死去。 |
嘘か真実か、また迷信か |
それから何年も後、トーマスは、ある友人に話を打ち明けた。その話というのは、ワルツを助けた彼女は、ワルツからそのお礼として、スーパースティション・マウンテンにある金鉱の場所を教えてくれたと言うのだ。彼女は、ワルツが死んだ後、その金鉱を見つけるために山に入ったが、見つけることができなかった。 これが、「失われたオランダ人の金鉱」の謂れである。 結局、人間の夢と欲が渦巻いたスーパースティション・マウンテンの「迷信の山」は、そんな話とは無関係のように勇壮な姿でたち誇っている。 |
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