アリゾナ州巡り、その3
日本人が知らないアリゾナ
ザ・ウェイブ
この場所は、一生忘れません。そう何回もいける所でもありませんし、団体で行くことも不可能です。
まず、許可証を取得しないと行くことはできません。その許可証は、アメリカ合衆国土地管理局が発行します。僕は、3月にネットで許可証の申請をしました。しばらくして、許可証が郵送されて来ました。立ち入り許可の日付けは、6月29日です。と言うことは、真夏の炎天下を覚悟で歩くことを意味します。
さて、ザ・ウェイブとは、何でしょうか。僕は、たまたまある写真家が撮ったザ・ウェイブを見て、「ここに行こう」と決めたんです。その写真に写っている茶褐色の岩は、まさに、ウェイブ、つまり、海の波のような形をしています。
これは、アリゾナ州とユタ州の州境にあり、地図で見ると、足が不自由な僕でも可能なように感じました。「行く」と決めたら、必ず実行しないと気がすみません。
僕は、3月から長距離の砂漠を歩くために、歩行訓練を始めて準備にかかりました。まず、ハイキング・スティックを買い、近くの山を歩くことからスタートしました。スコッツデールというフェニックスの隣町にある山に挑戦しました。朝から山を登り、その日の夕方には戻ってこれました。
カメラバッグには、十分な飲み水とクラッカーを入れ、転んだときのために、コンパクトな応急手当ての用具も入れておきます。それから帽子。頭上から容赦無くてり続ける太陽光線に気を付けなくてはなりません。
そして、ザ・ウェイブのような携帯電話のシグナルがなくなる場所に行くので、小型の機械で、自分が歩いて来た場所がわかるハイキング用のナビも買いました。
こうして、3ヶ月準備をして、いよいよ、ザ・ウェイブに出発です。
6月28日は、ユタの小さな町のモーテルで一泊し、翌朝、車で向かいました。そして、いよいよ、ビジターセンターに着き、車を止め、ハイキング開始です。
背中のバッグには、カメラ1台、レンズ2個、水のペットボトル4本、クラッカー、タオル、応急手当用具一式あります。この日は、そろそろ7月になる頃です。やはり、夏の太陽が顔を照らしています。
最初は、僕以外誰も人がいませんでした。しばらくすると、若い男の人が三人歩いているのを見ました。
なにせ、1日に10人しか許可書をもらえないんですから、この広い荒野に24時間で、たった10人の人間だけが歩くんです。
ここには、全く標識がありません。ですから、目的地につくかどうかは、全責任が僕らにあります。今まで道に迷った人はいないのかなあと、考えながら歩いていると、前にだれかが置いたのでしょう、小さなレンガの大きさの石を見つけました。これが目印です。これさえ、見落とさなければ、生きて帰れます。

あとでわかったんですが、この男性三人はドイツから来ている旅行者でした。普通、足が健康な人なら、往復3から4時間で往復できるはずですが、僕の場合は、3時間して、ようやく目的地に近づくことができました。出発したのが朝の9時です。夜までに戻れば幸いです。
さて、午後1時くらいに着きました。ところが、急に足場がそれまでの岩のような硬い地面から海辺にあるような砂場に変わったんです。地面を踏むと、足が砂の中に沈んでいきます。これには、参りました。なかなか前に進みません。幸い、一人のアメリカ人男性が近くにいて、僕のお尻を押してくれました。彼がいなかったら、あの砂地獄で、しばらく、もがいていたでしょう。彼にお礼を言うと、彼がフロリダから来た写真家だとわかりました。彼は、「実は、許可証なしできたんだよ」と僕に言うんです。僕は、「大丈夫でしょう。だって、周りに誰もいませんよ。見てくださいこの荒野を。仮に人が殺されても、救急車もパトカーも来ませんよ」と返事して、ペットボトルを一本、彼にあげました。
さあ、彼と二人で写真を撮り始めました。とにかく、この波のような岩は、誠に奇妙です。長時間をかけて水と風が起こした風化作用でこうなったんです。自然の力は、人間の知力では計り知れません。
1時間位すると、彼は、写真を撮り終えたようで、先に戻って行きました。僕の方は、ちょっと疲れが出て、足が痛くなって来ました。そこで、ゆっくり休んで、慌てずに帰ろうと決めました。
後からここに来た人たちもいましたが、皆しばらくして帰って行ったようです。2時くらいになると、ザ・ウェイブにいるのは、僕がたった一人です。周りは、本当に静かです。風の音以外に何も聞こえません。空には、飛行機も飛んでいません。鳥さえ一羽もいません。木がないので鳥も来ないんでしょう。

さあ、そろそろ帰らないといけません。向こうの空が暗くなり、雷が聞こえます。嵐にあったら、生きて帰れないかも、などと思い始めました。

ゆっくりと、朝来たところを同じように戻って行くようにしました。目印をいつも探して歩きました。ハイキング用のナビも見ています。途中、目印がわからなくなり、困りましたが、あちこちと歩いてみると、ようやく心当たりがある岩を見つけ、目印を発見しました。
結局、駐車場に戻ったのは、夜の7時です。何と、10時間の旅立ったんです。