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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

廃水処理と新エネの最先端、トレス・リオス・ウェットランド

2022年2月号

 フェニックス市の西端に作られた人工の沼地。これがトレス・リオス・ウェットランズ(Tres Rios Wetlands)だ。トレス・リオスとは、スペイン語で「3本の川」という意味。フェニックスを流れる3本の重要な川がある。それは、ソルト川、ヒラ川、そしてアグアフリア川である。
 この人工の沼地(ウェットランド)は、フェニックス市が立ち上げた一大プロジェクトである。目的は、市民に一般公開する娯楽施設でないため、よく知られていないが、釣りやハイキングなどを楽しむ市民が家族で訪れ、楽しんでいる姿も多く見かける。また、水鳥の写真を撮影に写真家もカメラを抱えてやってくる。
 今月は、この沼地に足を運んで、ゆっくり歩いてみよう。

豊富な水と魚。そこは水鳥にとって別天地。ふと砂漠のアリゾナを忘れさせる光景が広がるトレス・リオス

トレス・リオスは何のために?

 

 

 このプロジェクトは、3つの目的を達成するために作られた。

 

  1. 1)治水

  2.  フェニックスの西側には、大規模な農園が広がっているが、過去に大量の雨が降ると、洪水が押し寄せ、農場や民家に多大に被害が出ることがあった。砂漠で一見乾燥しているような川でも、突然の雨で荒れ狂うことがある。
    そこで、その洪水防御として、この沼地が一つの大きな土手となって、水の氾濫を防ぐ役割を果たすことになる。

  3. 2)動植物の保護

  4.  沼地を形成することで、魚、植物、水鳥、また小動物が集まり、一つのエコシステムが形成される。こうした動植物を保護することで、自然にやさしい水資源を保つことができる。

  5. 3)リクリエーションおよび環境保護の教育推進

  6.  ここを市民に開放し、自然を親しむリクリエーションを提供し、また、環境保護への情報提供によって、その教育を推進する。

 

 

   
建設工事
トレス・リオスを見下ろすハゲワシ

 フェニックス市とアメリカ陸軍工兵隊がパートナーとなり、工事がスタートした。アメリカ陸軍工兵隊とは、アメリカ合衆国政府の機関の一つで、ダムなど土木工事プロジェクトの計画、設計、施工、運転を行う。
 2000年に、連邦議会は、アメリカ陸軍工兵隊がトレス・リオスのプロジェクト工事を行うことを承認した。フェニックス市は、アメリカ陸軍工兵隊とともに、ソルト川とヒラ川に沿った700エーカーの土地を提供して、プロジェクトの実行準備に入った。このプロジェクトは、全体の予算の65%がアメリカ陸軍工兵隊から、35%が地元のスポンサー、フェニックス市、そして、周辺都市(スコッツデール、テンピ、グレンデール、メサ)が補うことになった。また、マリコパ郡治水部が技術的な援助を提供した。
 実際、工事は、2007年にスタートし、2012年に完成した。

トレス・リオス・ウェットランドズの工事作業(2009年撮影)
   
沼地の水はどこから

 トレス・リオスの水源は、川ではなく、廃水処理工場である。トレス・リオスの横には、アリゾナ最大規模の廃水処理工場があり、フェニックス、グレンデール、スコッツデール、メサから排水がここに流れ込む。名前は、91番アベニューに位置しているので、91番アベニュー廃水処理工場と呼ばれている。
 工場で塩素を使った化学処理過程を終えた水は、大型ポンプで人工の沼地に放出される。この沼地がトレス・リオスだ。一日で放出される水は、3億ガーロン。

   
 
沼地の水
トレス・リオスに巣を作ったサギ

 沼地は総面積290エーカーで、ここに排出された水は、自然の力による次の処理過程を通過する。沼地の底や沼地に生えている水草には、数え切れないほどの大量のバクテリアが住んでいる。このバクテリアが工場から排出されてきた水の中にある有毒物質などを食べて、水を浄化していく。水草は、光合成によって酸素を発生する。この酸素が水中のバクテリアや病原体を殺す。 沼地では、水の浄化を助けるだけでなく、水鳥、両生類、昆虫、小動物などの生息環境を提供する。 こうして、自然力の浄化過程を終えて、水は、ソルト川に放出されていく。

   
廃水処理と原子力発電

 アリゾナには、原子力発電所がある。フェニックスから45マイル西に位置するトノパーという町の端に建設されたパロバーデ原子力発電所は、アメリカ最大の発電量を誇る。 さて、原子力発電には、原子炉の冷却という重大な事項がある。2011年に東北を襲った東日本大震災で福島第一原子力発電所の炉心冷却が失敗したことは、大きな惨事を呼び起こしてしまった。 この冷却に必要なものは、水である。パロバーデ原子力発電所は、アリゾナの砂漠の中にあり、冷却用の水の確保は死活問題である。では、その水はどこから提供されているだろうか。答えは、フェニックス市が稼働運転している91番アベニュー廃水処理工場である。 インターステート高速道路10号を走り、トノパーの町の南方から白い煙のようなものが立ち上がっているのが見える。これが、パロバーデ原子力発電所で冷却用に使われた水の水蒸気である。

新たなバイオガス生成工場

 さて、深刻な気候変動に対応し、新たな再生エネルギー生成への努力が各地で盛んになってきた。トレス・リオスの沼地に水を送り込んでいる廃水処理工場では、次世代への挑戦が始まった。 それが、バイオガスである。 バイガスとは、生ゴミ、紙ごみ、家畜ふん尿などから微生物の力によって発生するガスのこと。このガスには、メタンという燃えやすい気体が含まれていて、都市ガスとして使うことができる。 91番アベニュー廃水処理工場の敷地内に2019年4月に誕生した新工場は、廃水が運んでくるゴミを使って都市ガスを生成するもので、全米最大規模の施設である。 また、バイオガスを生成した後に残る液体、有機性の液体肥料として農地で使われることになる。 新工場のオープニング式典で、フェニックスのガイエゴ市長は、フェニックス市が掲げる10年計画を話し、市が全米で最も再生可能な町を目指し、この工場が一つの大きな試金石となると語った。

   
トレス・リオス

 ここは、無料で一般に公開されているが、許可証が必要となる。許可証は、下のサイトに行き、インフォメーションをタイプして、許可証をリクエストすると、メールで許可証が送られてくる。

無料入場許可証サイト https://www.phoenix.gov/waterservices/tresrios/permit

 91番アベニューを車で走ると、小さな標識が見えてくる。実は、この標識は非常に小さく、見落としやすいので、スピードを落としてよく見る必要がある。入り口を入ると、そこが駐車場である。 駐車場からは、歩くトレイルがあり、真っ直ぐ西に向かっていくものと、土手を挟んで南側にもあるトレイルで西に向かっていくものと二つある。土手の北のトレイルは、用水路に水が流れ、水草が生い茂っている。 土手の南のトレイルは、林の中を歩くようになっている。両方とも西の端で合流するが、そこには、水がソルト川に流れ込む排出口がある。じっとエサとなる魚が流れてくるのを待っているシラサギなど水鳥が見られる所である。