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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

国勢調査に見るアメリカの素顔(2)

2021年4月号

 人口統計の数値は、その社会の現状だけでなく、将来の姿も私たちに伝えてくれる。先月号では、2020年国勢調査の結果を基礎に、米国の現状と未来の方向を見てみた。移民の国、アメリカが抱えるユニークな課題と多民族国家の未来の姿を少々捉えてみた。
 世代が変わることは、社会の実態に強烈な影響を与えることだ。過去の常識は、現在の非常識になることが多く、現在、当然のように行われていることも、将来、非常識となることがあろう。
 そこで今月は、世代別の人口推移をデータから見て、若手世代が築き上げる未来の社会像を考えてみよう。

 
 
世代区分

 

 日本では、世代区分が和暦で記載されることが多く、明治、大正、昭和、平成、令和でそれぞれ異なった特徴が表現される。とりわけ、その時期が長かった昭和は、「昭和一桁世代」、「焼け跡世代」「団塊の世代」などと区別されている。
 世代の違いを表現した良い例がある。それは「戦争を知らない子供たち」という歌が流行った1970年代のことだ。この歌は、太平洋戦争の経験者と戦後に生まれた若者との考え方の相違を浮き彫りにした。この歌は、当時のベトナム反戦運動にも使われた。
 さて、アメリカの場合は、第二次世界大戦後からケネディー政権の間に生まれた人たちをベビーブーマーと呼ぶ。この時期は、確かに多くの赤ちゃんが誕生し、この世代の台頭が社会的、経済的、文化的に多大な影響をもたらしてきた。現在、そのベビーブーマー世代が高齢化し、次の世代による新社会形成の時が到来している。

 

   
アメリカの世代区分

 アメリカにおける人口統計を次の世代区分で見ていくと、社会全体の変化が明白になっていく。
1)サイレント世代:1928年から1945年誕生の世代
2)ベビーブーマー世代:1946年から1964年誕生の世代
3)X世代:1965年から1980年誕生の世代
4)Y世代(ミレニアル):1981年から1996年誕生の世代
5)Z世代:1997年から2012年誕生の世代
6)アルファ世代:2013年以降誕生の世代
図表1は、アメリカでの2019年度の世代別人口割合。

図表1

 

 
サイレント世代

 この世代は、世界大恐慌、第二次世界大戦の時代に生を受け、人数的には比較的少ない世代となる。「サイレント」と呼ばれるのは、「サイレント・マジョリティー」という言葉から来ており、「物言わぬ多数派」という意味を指す。この世代は、2021年に76歳から93歳となる人々である。
 経済崩壊と戦争の時代に生まれたこの世代は、多くが親や兄弟を戦争で亡くしており、そこから這い上がる家庭で育った。したがって、お金の価値を大切にし、物を無駄にしない世代である。

   
ベビーブーマー

 第二次世界大戦からケネディー政権の間に生まれた世代で、この時期に、戦後のベビーブームで多くの子供達が誕生している。この世代は、冷戦、ベトナム戦争の勃発下に10代、20代となり、多くが社会運動に関与し、既存社会に反抗して、反戦運動、公民権運動に参加している。多くの「ヒッピー」族が生まれたのもこの時期である。この世代は、2021年に57歳から75歳の人々となる。

   
X世代

 

 インターネット普及の直前に生まれたこの世代は、子供の時代から青年期にIT革命を経験して、ビデオゲームで育ったデジタルネイティブの最初の世代でもある。親が二人とも第二次世界大戦後に生まれている。幼少期にソ連崩壊があり、青年期にアメリカ同時多発テロ事件を目の当たりにしている。インターネットが爆発的に社会に広がり、パソコンや携帯電話を駆使して育った。社会的には、不正を嫌う傾向が強く、物質的な豊さより精神的な豊かさを求める人が多く、社会貢献性の高い仕事に興味を示す特徴が挙げられている。
 この世代はミレニアル世代とも呼ばれる。その意味は、ミレニアム(新千年紀)である2000年以降に社会に進出する世代ということである。2021年に25歳から40歳の人々となる。

図表2
   
Y世代(ミレニアル世代)

 インターネット普及の直前に生まれたこの世代は、子供の時代から青年期にIT革命を経験して、ビデオゲームで育ったデジタルネイティブの最初の世代でもある。親が二人とも第二次世界大戦後に生まれている。幼少期にソ連崩壊があり、青年期にアメリカ同時多発テロ事件を目の当たりにしている。インターネットが爆発的に社会に広がり、パソコンや携帯電話を駆使して育った。社会的には、不正を嫌う傾向が強く、物質的な豊さより精神的な豊かさを求める人が多く、社会貢献性の高い仕事に興味を示す特徴が挙げられている。
 この世代はミレニアル世代とも呼ばれる。その意味は、ミレニアム(新千年紀)である2000年以降に社会に進出する世代ということである。2021年に25歳から40歳の人々となる。

 

 

Z世代

 主に2010年代から2020年代に社会に進出する世代。彼らが生まれた時点で、すでにインターネットが広く普及していたので、デジタルネイティブの世代とも言われる。デジタル機器は当たり前のように存在しており、日常生活の一部となっている。パソコンよりも携帯電話を頻繁に使いこなす(スマホ世代)。
 この世代の傾向として、進歩的で個性派世代であり、多くが人種の別や同性愛などの多様化を認める。2021年に9歳から24歳の人々。

   
世代別傾向の差異

 図表3はマッキンゼー&カンパニーが調査した世代別の傾向差である。もちろん、全員がこの中に当てはまるわけではないが、大方の傾向性を見ると、その差異が興味深い。これは、アメリカの経済界も注目をしており、市場調査を通して、次に何が売れるのか、若い世代は何を求めているのか、ということが企業の将来を決定する鍵となる。経済界だけでなく、あらゆる団体がその未来を生き残るために、次の世代の傾向性に熱い視線を注いでいる。

図表3
   
ミレニアルとZ世代の共通点と相違点

 アメリカの将来は、現在のミレミアル世代とその次のZ 世代が担っている。この両世代の思考、趣向、行動規範などが次の社会を形作る基礎となるであろう。
 そこで、ミレニアルとZ世代の共通点と相違点を見てみよう。
ミレニアルの世代も次のZ世代もインターネット時代に育ってきたので、デジタルネイティブである。ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションと情報収集という点では、それ以前の世代と隔絶な差を作っている。
 ピュー研究センターが2010年に調査したミレニアル世代が持つ異人種間の結婚に関する考え方が図表4のように出ている。それによると、彼ら以前の世代に違和感があった異人種同士の結婚に関して、大多数が賛成をしていることがわかった。この傾向は、Z世代でより顕著になっているようだ。
 また、同性愛に関しても、オープンである。
 両者の相違点は、Z世代がミレニアル世代より遥かに進んだデジタル時代に育っている訳で、スナップチャット、インストラグラム、フェースブックを毎日利用して、互いに意見交換を頻繁にしていることがわかった。ある調査の結果で、この世代は、人々は皆平等であると信じ、80%という大多数がブラック・ライブズ・マターのプロテスト運動に賛同し、74%がトランスジェンダーの人権を認め、64%が女性のフェミニズムを支持すると答えている。彼らは、自分たちを「流動的なアイデンティティーを持つ世界市民」であり、「既存のルールにとらわれない」人間であると表現している。
 生まれた時からスマホのスクリーンを見ているこの世代は、スクリーンを通して他と交際することに違和感はなく、そこには、肌の色の違いやジェンダーの違いに関わらず、全てが平等であるという認識が定着したいるようだ。

図表4
   
世代間の違いが伝える未来の社会

 日本で1980年代に使われた言葉で、「新人類」という表現があった。これは、経済学者の栗本慎一郎が作った造語だが、当時の若者を「従来とは異なった感性や価値観、行動規範を持っている」という規定をして、広く社会で使われるようになった。
 アメリカでは、そのような言葉が使われていないが、Z世代は、まさに、「従来とは異なった感性や価値観、行動規範を持っている」若者のことであろう。
 図表5、図表6、図表7は、それぞれ異なった会社が行った調査結果だが、各世代の違いが如実に現れている。とりわけ、図表6と図表7は、2020年に行われた大統領選挙に関連して、世代別の政治思考の違いがよくわかる。

図表5
図表6

 

図表7


 さて、図表8は、Z世代とミレニアルだけの相違を選挙の支持率から表している。両世代とも男女の差が極端にあるが、両世代ともバイデン支持者がトランプ支持者を上回っている。これは、ただ単に政党支持の違いだけでは、説明できない現象であろう。図表9では、投票する際に、何を重視していたのかを、モーニング・コンサルタント社が調べた結果である。これは、投票権を持つ年齢に達しているZ世代と全世代の比較である。全体的に、一番の関心事は経済であった。しかし、Z世代の多くは、現在の資本主義的な経済政策に疑問を持っているようで、中には、社会主義的な経済政策を好むと答えた人たちもいる。さて、Z世代と全体との極めて大きな違いは、Z世代が中絶とか平等な給料制度を大切な課題と捉えている点である。全米では、中絶は賛否が50%前後で分け合っている。しかし、アメリカのキリスト教をベースにした調査機関であるバーナ・グループが調査した結果、Z世代の3分の2は、中絶を道徳的に間違っていると考えていないことがわかった。また、給料の男女差や人種差に関しても、多くのZ世代は、平等であるべきと考えている。これは、この世代が持つ「人々の平等観」の現れで、社会の安全や教育よりも優先して捉えていることがわかる。

図表8

 

図表9

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 この若い世代の価値観や行動規範が、アメリカの今後10年、20年先を形作っていくことは間違いない。ましてや、人種的により混ざり合った家庭ができることで、これまでの「白人」「黒人」「アジア系」「ラティノ系」などという範疇に入らない人々の人口が増えていくようである。

   
2060年の人種別人口予測

 図表10は、ブルッキングス研究所が人口統計から計算した2060年の予想データである。これは、混血も含めた人種別人口の比較をグラフにしたものだ。しかも18歳以下の若い層と65歳以上の高齢者層とで分けている。現在のミネニアル世代は、2060年になると65歳以上になっている人が大半となる。
 このグラフで明らかなのは、まず、白人人口は極端に減少するということである。そして、ラティノ系の増加が顕著で、また、若い世代で混血の人口がかなり増える見込みである。つまり、21世紀も後半には、アメリカ人の顔は、それこそ多種多様の肌の色と多種多様のバックグランドを持つ人々の顔となるである。Z世代が信じる人々の平等観が本当にアメリカに根付かないと、恐ろしいほどの分断の世の中が現出する可能性がある。マジョリティーが消滅するアメリカ社会がやがてやってくるのだ。

図表10

 

 次号では、州別の人口、とりわけアリゾナ州に焦点を当てて、人口統計と社会変化を見てみることにする。