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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

国勢調査に見るアメリカの素顔(1)

2021年3月号

 2020年の国勢調査による統計結果が出始めている。今後数カ月でさらに詳細なデータが発表されることになる。
国勢調査とは、アメリカ国内で10年に一度行われてる調査で、国内の人口を人種別、年齢別などに分類することによって、アメリカ国内の情勢と将来の方向を判断できる貴重な材料となる。また、連邦政府の連邦予算、補助金、支援金の州、郡、コミュニティーへの配分を決定し、また、下院の議席数を再配分して各州の議席数を決定するための貴重な資料となる。
 今月は、すでに発表されたデータ、そして、それ以前に出ている調査結果などをもとに、現在と未来のアメリカ社会を数で追ってみることにする。

 
 
アメリカ合衆国の総人口は?
図表1

 

 アメリカ合衆国国勢調査局が発表した2020年統計結果を紹介しよう。
2020年7月1日現在のデータでは、全米の人口は、329,484,123という数が出ている。ちなみに、2019年国勢調査での全米人口は、328,239,523だった。
 左表(図表1)は、米国全体と州別の人口比である。
全米人口、32億9千万をその10年前の人口数と比較すると、人口伸び率は、6.72%である。実は、この数値は大変低いものである。アメリカでの国勢調査は1790年に始まったが、その時以来の最低の伸び率だ(図表2)。

図表2


 実は、今回に次ぐ低い増加率を示した時期が、過去にもあった。それは、1940年の調査結果で、7.3%増という数値だった。この時期に人口増が低かった原因は、世界大恐慌の影響によるもので、当時は、社会全体が多大なダメージを負った時期であった。
 さて、それでは、今回明らかになった2010年から2020年の間の人口増加の低迷は、何が原因だったのだろうか。

   
図表3

 

 まず一つ挙げられるのは、アメリカで過去10年顕著になってきた出生率の低下である。(図表3と4)出生率が低い原因は、いろいろある。まず、アメリカの男女の結婚時期が遅くなっていること。特に、大学や高等教育を受ける女性が結婚と出産の時期を遅らせるケースが非常に多いのが現実である。また、若い男女が家庭を持つために、職業的、財政的な基盤をしっかり固めてから結婚へ踏み切る場合も多い。また、10代の妊娠が国内で減少しているのも事実である。
 次に、新型コロナウイルス感染での死亡者数増大も大きな要因である。これは、2020年だけでなく、2021年にも引き続き、今後の人口増加に大きな影響を与えるだろう。図表1の右欄にある前年比は、2019年と2020年の比較だが、それ以前の年間比率より下がっており、パンデミックの影響が現れていると言える。
 3番目に、連邦政府、とりわけトランプ政権下での強硬な移民規制政策によって、移民の人口増加が著しく減少したことである。一方、この時期に移民を受け入れてきたカナダは、人口が著しく増加している。
もし、このまま出生率が下がり続け、死亡率が上昇し、移民流入が伸びなくなると、将来のアメリカは人口減少をもたらすことになる可能性がある。

図表4

 

 

 

 
州別では

 

 国勢調査の結果を州別で見ると、アリゾナ州が引き続き際立った増加の数値を出している。(アリゾナに関しては、次号あるいはその後の号で扱う予定)
 全米51州の中で、過去3年、人口が減少傾向にある州は、アラスカ、コネチカット、ハワイ、イリノイ、カンザス、ルイジアナ、ニューヨーク、ロードアイランド、ウエストバージニア、ワイオミングの11州である。一方、増加を続けている州で際立った増加率を示している州は、アリゾナ、コロラド、ワシントンDC、フロリダ、ジョージア、アイダホ、ネバダ、ノースカロライナ、ノースダコタ、オレゴン、サウスカロライナ、テキサス、ユタの13州である。

   
若い世代の人口増減
図表5

 図表5は、2010年から2019年の9年間における25歳以下の青年人口の増減を州別に示している。51州の内29もの州が青年人口を減らし、22の州が増加させている。とりわけテキサス州の増加数は、目を見張るものがある。
青年層の増減は、その地域の未来像の鍵を握る重要な事柄である。

   
年齢別の人口統計

 

 

 

 

 

図表7

 

 さてデータを年齢別に見てみよう(図表6)。これは、2020年の年代別に分けてその数とパーセンテージを出したものだ。

図表6

 

 今度は、1980年から現在、そして2040年の未来予測を見てみよう(図表7) 。ここで明らかなのは、アメリカのベビーブーマー世代が高齢化してきていることだ。したがって、現在65歳から74歳までベビーブーマー層の人口が増大している。この傾向は今後も続き、1980年では、10人に1人が65歳以上だったが、2040年までには、65歳以上の人口が総人口の20%となり、5人に1人は、65歳以上という社会となる。
 ちなみに、日本の国勢調査では、現在、65歳以上の高齢者は、総人口の28.7%で、3.5人に1人が高齢者という社会である。
 アメリカでは、一方、若手の世代の台頭も見られる。これは、ミレニアルと呼ばれる世代で、25歳から34歳の間の世代である。

 

   
人種別の人口統計
図表8
図表9

 2019年と2020年の人種別人口の推移を見ると、二つの事実が明白になった(図表8)。
 一つは、ラティノ系とアジア系の人口急増である。米国の総人口が過去10年で1,950万人増加しているが、その内、1,000万人は、ラティノ系で占められている。つまり、全米の人口増加の半数がラティノ系からきているということだ。これは、中南米からの移民による人口増加と移民家族の高い出生率が大きく貢献している。
そして、次に増加率が高い人種がアジア系である。アジア系は、とりわけベトナム、タイ、ラオスなどの東南アジア諸国が経済力を強め、ビジネスや留学などによる移民が増加している。その上、インドから多くの青年層がアメリカに仕事などで渡米し、米国に定住するケースが非常に多くなってきた。
 二つ目の顕著な事実は、白人の人口減少である。2020年の国勢調査で明らかになったのは、白人人口が歴史始まって以来、初めて減少したことである。これは、白人の低い出生率と高齢化による死亡数の増加が大きな要因となっている。さらに、ヨーロッパからの白人の移民が著しく低迷している事実もある。2019年の統計では、全米の白人の平均年齢は、43.7歳であり、ラティノ系の34.6、黒人の37.5、そしてアジア系の20.9と比較して、白人の高齢化が顕著になっている。
 この推移を2010年から2019年の9年間で見ると(図表9)、いかに白人人口が減少し続け、ラティノ系が増え続けてきたかが良くわかる。図表10では、同時期における16歳以下の子供たちの人口推移を示しているが、出生率の高低で人種別の違いが明白である。

図表10

 

 

 

年齢別と人種別の人口統計による未来像
図表14
図表12

1) 高齢化社会への道
 以上の年齢別と人種別の人口推移から、将来のアメリカの姿が浮き彫りになりつつある。
まず、アメリカ社会は、ゆっくり、そして確実に高齢化社会に向かっているということだ(図表11)。

図表11


 もし、現在の出生率、死亡率、そして移民の増加率がそのまま継続すると仮定しよう。すると、2020年から2060年の40年間でアメリカの人口は22%増加することになる。過去40年間の増加率は、44%であったので、将来の人口増加は、過去の半分となる。
 移民増加が低迷すると、次の15年で18歳以下の年齢層の人口増加がゼロに近くなり、しかも、65歳以上の人口が38%も伸びることになる。
これが移民の国アメリカの実態である。アメリカの若年層の人口増加は、ひたすら移民の増加に頼る以外にないのだ。

2) 人種の多様化
 次に、アメリカ社会がより人種的に多様化し、白人がマイノリティーになる時が到来するということである(図表12)。統計局の予想では、今世紀半ばには、アメリカ人の半数以上がこれまでのマイノリティーの人種、混血などで占められ、本格的に多様化したアメリカ人の顔が出現することになる。

図表12


 州別に近年の白人青年層と非白人青年層の州別人口増減を示すデータが出ている(図表13と14)。アリゾナ州でも非白人の若手世代が台頭していることが如実にわかる。
(次号に続く)