このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。
切実に迫るアリゾナの水不足
2021年10月号
米国内務省に所属する政府機関の一つに開拓局がある。1902年に「土地開拓法」が成立し、合衆国西部の水資源を分配し、調達や貯蓄することで、灌漑、給水、また水力発電などの実施を目的に誕生した機関である。とりわけ、コロラド川の水資源に関するプロジェクトは、重要な仕事となってきた。 |
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ミード湖(Lake Mead)
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ミード湖は、アリゾナ州とネバダ州の州境に位置する人造湖。1936年に完成したフーバー・ダムによって砂漠の真ん中に突然生まれた貯水用の湖である。この水は、アリゾナ、カリフォルニア、ネバダの3州と下流のメキシコのために使われ、水源が継続的に維持されることを目的としてきた。 |
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水量激減のミード湖 |
ミード湖は、フーバー・ダムの完成後、水を満々とたたえていた。ところが、1983年を境に水量が減少し始めた。この原因は、一つに爆発的な人口増加によって水の消費量が増え続けてきたことがあげられる。もう一つは、干ばつである。気温の上昇とともに、雨量が減り続け、コロラド川の水量に大きな影響を与えてきた。コロラド川は、ロッキー山脈から流れる雪解け水を源としているが、降雪量も減少の一途をたどっている。 |
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CAP(セントラル・アリゾナ・プロジェクト) |
CAPは、アリゾナの生命線である水資源を確保する目的で作られた 送水路プロジェクトである。1968年にジョンソン大統領が署名したコロラド川盆地企画法によって、CAPが正式に承認された。実際の送水路施設の工事は、1973年に開始された。送水路は、ハバス湖からフェニックスに伸び、後に南下してツーソンまで延長された。工事の完成は、1993年。送水路の全長は、336マイル(540 Km)で、総工費4億ドルという大規模な工事であった。 |
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開拓局の発表内容 |
以上の深刻な状況が背景となり、本年8月に、開拓局は、コロラド川にある二つのダム(グレンキャニオン・ダムとフーバー・ダム)からの放流水量を2022年から減少させることを発表した。このようなことを連邦政府が発表するのは、米国史上始まって以来のことである。
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今後の対策 |
アリゾナの一般家庭や商工業においては、より効率的な水使用に焦点を当てなければならない。農業では、灌漑設備を改良したり、水消費の少ない農作物に栽培を切り替えたり、様々な努力が必要となる。 |
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突飛な提案をした政治家 |
ミシシッピー川とグリーン川の間をパイプで結んで、ミシシッピー川の水を運んだらどうか? このような提案をアリゾナのユマ選出、ティム・ダン州会議員が音頭を取ってアリゾナ州議会で賛同を得、米国議会に提出した。グリーン川は、ワイオミング州からユタ州を流れ、コロラド川に合流する川のことだ。 |
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フェニックス市が行う「節水ワークショップ」
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一方、フェニックス市では、早速、住民に水保存のあり方を教示するワークショップが開始された。
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フェニックス市の干ばつ管理計画(Drought Management Plan)
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フェニックス市は、干ばつ対策の一つとして、干ばつ管理計画を打ち立てている。
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水保全への戦い
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砂漠のアリゾナでフェニックスやツーソンのような大型都市が生存するためには、水の保全は、アリゾナ全体の州あげての全身全霊を打ち込んだ戦いとなる。ここに幾つかの例を見てみよう。 |
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市民の意識変化 |
アリゾナ州の住民が持つ水不足に対する意識態度にも変化が出ている。フェニックス市水道局によると、過去20年で40万人もの人口増加が見られるにもかかわらず、現在の市内年間水消費量は、その20年前とほとんど同じであるという。2000年のフェニックス市は、その80%の家が青々とした芝生の庭を持っていた。ところが、過去20年で、3割以上の家庭が芝を放棄し、人工芝や石を敷き詰めた庭に変えている。 |
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土地開発と水資源 |
人口増加と企業流入により、土地開発業者が次々と新たな住宅建設に取り組んでいる。アリゾナでは、州法で、業者は、住宅開発をする地域において、100年先の水供給の確保を証明しなければならないことになっている。 |
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今年は天の恵みか |
今年の夏は、異例の長期モンスーン季節の到来で、アリゾナ州内の雨量が例年を上回った。そのため、SRP(ソルト・リバー・プロジェクト)の発表では、ソルト川の水量が増加し、25万エーカーフィート増となった。ソルト川は、やはり近年の干ばつの影響を受けていたが、本年の降雨で貯水量に増加が見られ、この天の恵みは、嬉しいニュースとなった。 |
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ホホカム族の例
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人智を尽くしての様々な水確保の戦いが始まっているアリゾナだ。もともと、フェニックスは、かつての先住民ホホカム族が残していった灌漑用水路を再利用することから出発した町である。ホホカム族は、砂漠の真ん中に村を作り、農業を営んだ。彼らは、ソルト川から網の目のように用水路を建設して、水を確保していた。今から思えば、驚異的な古代人の知恵と力である。 |
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