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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

アリゾナで越冬するツルたち

2021年1月号

 アリゾナに冬の季節が到来すると、「スノーバード」と呼ばれる人たちが避寒のためにやってくる。彼らは、イリノイ、ミシガン、ニューヨークといった冬の厳しい場所を去り、冬の期間だけアリゾナでの温暖な冬を過ごす人たちである。遠くは、カナダからもやってくる。したがって、冬のアリゾナは、人口が急激に増加する。
 アリゾナで越冬をする「スノーバード」は人間だけはない。まさに「バード」、つまり鳥が厳しい冬を避け、温暖な場所で生活をする。そして、春が来ると、再び、北国に帰っていくのだ。つまり、「渡り鳥」である。そして、この「渡り鳥」の一群がアリゾナの南部に毎年来ている。
 今月は、おびただしい数のツルがシベリアやアラスカから渡ってきて、アリゾナで越冬している場所、「ホワイトウォーター・ドロー」を訪ねて、ツルの優雅な舞を見てみよう。

数え切れないほどのツルの群が湿地帯を覆い尽すホワイトウォーター・ドロー

 
 
ホワイトウォーター・ドロー

 

 約600エーカー(1448ヘクタール)の湿地帯を1997年にアリゾナ州鳥獣魚類部が買い取り、ここに生息する鳥類の保護を始めたのが、ホワイトウォーター・ドローである。 正式には、ホワイトウォター・ドロー・ワイルドライフ・エリア (Whitewater Draw Wildlife Area) という名称になっている。
 ホワイトウォターという川は、ツームストーンの町より少々東側の山から流れている小川で、水はメキシコとの国境の町、ダグラスまでたどり着いている。
 その小さな川の流れが作った湿地帯に水鳥が集まり、冬には渡り鳥がやってきた。そこで、その生物と自然を保護する目的で州政府がこの土地を取得したのである。

   

カナダヅル

 ここに来ているツルは、日本語でカナダヅル、英語でサンドヒル・クレイン(Sandhill Crane)という名で、北アメリカとシベリア北東部で繁殖し、冬にアメリカ南西部に渡ってくる。
 サンドヒルという名前は、アメリカのネブラスカ州西部にあるサンドヒル地方から由来している。サンドヒル地方には、州の4分の1をカバーする砂丘が広がり、草原と湖の美しい自然を備えている。そこに流れるプラット川は、渡りをする水鳥が途中で立ち寄る中継地になっている。そこに、毎年このカナダズルが45万羽も立ち寄っていて、カナダヅルにとっては、非常に重要な場所である。日本では、カナダがこの鳥の主要な繁殖地であることから、カナダズルと呼んでいる。
カナダヅルの形態は、赤い前頭部と白い頬が特色で、成長の体は、全体が灰色だ。幼鳥には、赤い前頭部がなく、上半身が赤みを帯びている。このワイルドライフ・エリアに備えられているキオスク掲示板の説明によると、カナダヅルの背の高さは、3から3.5フィート(91から106センチメートル)で、体重は、6から7ポンド(2.7から3.2キログラム)。羽の長さは、5から6フィート(1.5から1.8メートル)ということだ。
 カナダヅルには、亜種が6種類あり、アメリカのメキシコ湾岸、フロリダ州、ジョージア州、キューバに生息する。フロリダの亜種は、人を恐れないで、住宅地に現れることも多い。中には、北に渡ることなく一生フロリダで過ごす種もある。
 カナダヅルは雑食性で、湿原を歩いて餌を探し、植物の種や実、昆虫、ネズミやヘビなどを食べる。普通、大きな群れをなして生活する。雄雌のつがいは、死ぬまで離れないで、生まれた雛を一緒に育て、南に越冬するのも一緒に行動する。

 

ホワイトウォーター・ドローの敷地内に立っている掲示。
越冬に最適なアリゾナ

 ホワイトウォーター・ドローに渡ってくるカナダヅルは、1950年代から急増しているという。もちろん、温暖な冬は魅力的だが、それ以上に食糧が豊富であることが大きな要因となっている。とりわけこの一帯で栽培されているサトウキビは、ツルにとって大切な餌となっている。今では、毎年、2万羽から3万羽という膨大な数のカナダヅルがここにやってきて、11月から3月まで滞在する。

渡り鳥は、なぜ渡る
フロリダのカナダヅルは、人間を怖がらず、住宅街に姿を表す。地面に落ちている物を食べたり、人間が与える物も食べる。(2012年撮影:南フロリダ)

 

 シベリアやカナダの北からアリゾナまで何千マイルという長距離。この長旅を毎年こなしているカンダヅルだが、なぜ渡るのだろうか。人間が「スノーバード」として寒いイリノイから暖かいアリゾナに渡ってくるのは、当然、気候や健康などが主な理由だ。しかし、鳥は、どうして?
 答えは、気候だけでなく、子孫を残すためである。産んだ雛を育て、成鳥にしていくために、餌が豊富で身が安全な場所に移動していくのだ。それはまさに大きな死活問題を抱えて空を飛ぶ必死の行動である。
 ツルが空を舞う姿は優雅だが、そこには生存をかけた闘いがある。
 では、人間だったらGPSが必要だが、なぜ方向に迷わないで正確に飛ぶことができるのだろうか。
 まず、鳥の体内に方位磁針があることがわかっている。つまりコンパスが体の中にあり、地球の磁気を感じて東西南北がわかる仕組みだ。渡り鳥の研究では、長距離を飛んでいる鳥が夜、睡眠をしながら飛行を続けていることもわかっている。脳が寝ていても、体のコンパスが働いていて方向を見誤らないように飛び続けていけるのだ。
 次に、鳥は太陽や星座の位置を見て、方角を知る。面白い実験結果があり、鳥をプラネタリウムの中に入れて放すと、プラネタリウに現れた北極星を見ながら飛んでいることがわかった。そして、北極星を隠すと、鳥は、自分の位置がわからなくなってしまったという。
 また、風の影響も受けて、自分が効率よく飛べるように風を利用して、行きと帰りで違うルートを使うこともある。
 その上、自分が生まれた場所の景色はしっかり記憶しているので、目的地に近づけば、その記憶を辿って正確に復帰をすることができる。しかも、一緒に飛んでいる仲間も声を掛け合っているので、間違いなく往復をこなすことが可能となっている。
 フロリダのツルの中には、「渡り」を止め、一生フロリダに住み続けている種もある。なぜ、「渡り」を止めたのだろうか。今後の鳥の研究は、さらに多くの興味深い研究成果を示してくれるだろう。

 
ツルが一斉にそらに舞い上がると、空の色まで黒くなるような後継を見ることができる
 

 

かつての住居がそのまま残されている

 

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