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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

夏来たるアリゾナの野花

2020年6月号

 そろそろ夏の暑さが戻って来た昨今のアリゾナ。この時期によく見かけるのは、サワロの木のてっぺんに咲く白い花。巨大で長身のサワロなので、人間の手に届かないほど高いところで開花する。見上げてみると、その花の中に潜む蜜を求めて蜂たちが飛び回っている。鳥たちも花に止まっている。夜は、蝙蝠たちも訪れる。こうした訪問者が出入りして、しばらくすると菓実が実り、今度はそれを求めて鳥たちやあ小さな動物たちが集まって来る。
 今月は、アリゾナ州の花に認定されているサワロの花を眺めながら、その美を探ってみた。

 

 
 
夜開花するサワロの花

 サワロの花は、5月から6月にかけて咲き誇り、その開花は夜である。砂漠で咲くサボテンの中には、サワロのように夜に開花するものがある。これは、自然が生み出した智恵の産物に他ならない。というのは、開花には植物が自らの体内で保つ水分を普通以上に使う必要があるからだ。ただでさえ乾燥して湿度が低い砂漠である。体内に蓄えた水分を節約するためには、太陽が照って水分が蒸発しやすい昼間より、太陽が沈んだ夜間の方が良い。そこで、サボテンが夜を開花する時に選んでいるという訳である。
 サワロの花は、夜開いて、次の日の午後には萎んでしまう。大変短期間の開花である。

 

 

受粉を助けるのは?

 

 サワロの受粉は、他のサワロとの接触がないと可能にならない。従って、一つのサワロの花から他のサワロの花へと移動する昆虫、鳥、こうもりなどが受粉を助けることになる。花が持つ甘い蜜に惹かれてやって来るこうした動物などがいて、受粉が可能となる。さて、受粉すると赤い実ができる。一つの実の中に約2,000もの種が入っている。この実は、ハトやアリの食糧ともなる。

   
サワロとは?

 このサボテンの名前は、英語でSaguaroと綴る。しかし、発音は、「サグアロ」ではなく、「サワロ」である。これは、スペイン語の発音による。
 サワロは、北メキシコと米国南西部一帯に広がるソノラ砂漠でしか育たない。米国内で砂漠は、カリフォルニアやニューメキシコなど他の州でも見られるが、サワロはソノラ砂漠特有のサボテンである。
 その成長は、非常にゆっくりと時間をかけて伸び、約200年ほど生きることができる。大きいもので、14メートル以上の高さになり、人間の腕のような形をした枝は、12本ほどできるものもある。花を咲かすサワロに育つまで35年要し、一本の枝(腕)が伸びるまでに約50年かかる。
 サワロの根は、地下深く伸びず、地表の近くにあって、雨などで水が地面に落ちると、すぐ吸収できるようになっている。吸い取られた水分は、アコーディオンのような骨の役目をする木の内部で蒸発しないように蓄えられる。
 サワロは、アリゾナ州の州法で保護されており、このサボテンを勝手に移動したり、傷つけたりするのは違法である。土地開発などでサワロの木を移動する必要がある時は、地主が州から許可を得なければならない。
近年の気象変動による温暖化は、サワロにも大きな影響を与えていることが、専門家の報告で明らかになっている。また、山火事などで若いサワロの成長が脅威にさらされていることも明らかになっている。
 サワロは、ソノラ砂漠の他の動物たちにとっても、なくてはならない存在で、食糧だけでなく、サワロの木に開いた穴に身を隠す小動物も多い。いわば、自然の生態系のなかで、多くの生物を守る存在である。