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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

春来たるアリゾナの野花(2)

2020年5月号

 新型コロナウイルスの影響で、アリゾナ州でも州知事が自宅待機令を出した。学校は閉鎖され、高速道路を走る車は、めっきり、その数が減り、外出する人たちは激減している。
 そんな人間社会とは対照的にアリゾナの自然は春を謳い、初夏を迎えて色際立っている。自宅に居ても、窓から外を覗けば、どこまでも澄み切った青空が広がり、新緑の木々が伸び、色鮮やかなサボテンの花がその美を誇っているように見える。そこには、私たちの心を和ませて、前に前にと生きる自然の力を感じさせてくれる。
 今月は、まるで満開の桜のように春の砂漠をきらびやかやに彩るパロヴァーデ(Palo Verde)の花をエンジョイしてみよう。

 
 
パロヴァーデ

 日本では、「パロベルデ」と紹介されているマメ科の植物。アメリカ南西部とメキシコ北西部に広がるソノラ砂漠に生息する。スペイン人たちがこの地にやって来たのは、17世紀ころだ。彼らは、この木を見て、「緑のつえ」と称した。スペイン語で緑は、「ヴァーデ(ベルデ)」。つえは「パロ」だ。
この木は、「ブルー・パロヴァーデ」と「フットヒル・パロヴァーデ」の2種類あり、「ブルー」は、「フットヒル」より水を必要とし、水が流れる箇所で生息し、「フットヒル」は、丘や山など水が余りない場所で育つ。
 この木の寿命だが、「ブルー」は、100年以内で死んでしまうが、「フットヒル」は、100年以上、長いものは400年も生きる長寿の木もある。
砂漠環境に耐えるため、干ばつが始まると、その枝を落として生き延びる。
マメ科なので、花を落とした後のパロヴァーデは、おびただしい数の豆を枝に付ける。かつて砂漠で生活を営んだ古代先住民達にとって、この豆は、大切な食糧となっていた。
 なお、このパロヴァーデは、アリゾナ州の木と認証されている。

 

 

パロヴァーデとサワロ

 

 砂漠で力強く生息するパロヴァーデの木は、ある植物にとって大きな役割を果たしている。それは、サワロ(Saguaro)と呼ばれる巨大なサボテンで、その育ての親といえる。
 サワロもソノラ砂漠特有のサボテンで、アリゾナの各地でその大きな風格を誇ってそびえ立っている。ちなみに、このサワロの花は、アリゾナ州の花として認証されている。
 サワロは、成長すると40フィート(12メートル)もの高さとなり、美しい白い花を咲かせる。その花にミツバチなどが入り込んで、受粉が起こり、実ができる。この実を食べに鳥くるがパロヴァーデの木に飛び移り、その枝に止まると糞を落とす。その糞の中には、サワロの実の中にあった種がある。種は、鳥達には消化できないので、そのまま糞と一緒に地面に落ちるのである。
 地面に落ちたサワロの種は、パロヴァーデの大きな木に守られて、直射日光を避けながら、地面から水分を取って、新芽を出すことができる。サワロの新芽は、引き続き、パロヴァーデの木からしっかりと守られて、スクスクと成長する。
成長を続けるサワロは、その大きな体が伸びるにつれ、パロヴァーデの木を押し続ける。そして、最終的に、パロヴァーデの木が押し倒される頃には、サワロの木は、立派な大人の木となり、保護が必要となくなる。こうして、パロヴァーデは、その使命を終えて、サワロの木にその生息場所を譲ることになる。
 砂漠を歩くと、こうして倒れているパロヴァーデの木の横に、堂々と立つサワロの木をよく見る。こうして、自然は互いに深く関係しあって、長期に渡って調和の世界を作り上げている訳だ。