ユナイテッド・ヴァン・ラインズ社という米国の大手運送業者が、毎年、人口流入動向調査を行っている。この企業は、全米主要都市を網羅して当社が担当してきたアメリカ人の引越しをデータで残し、その結果を毎年発表してきた。実際、運送業の業績を通して、数値を出しているので、数は正確だ。ただし、この会社を使わないで引っ越ししている人たちの数は、もちろん出ていない。
本年、1月2日にユナイテッド・ヴァン・ラインズが2019年度の調査結果を発表した。今年で43回目となる発表である。
そして、その結果によると、アリゾナ州は、全米3位でインバウンドが高い州となっている。
さらに、他のデータを探って観ると、アリゾナ州に引っ越してくる人たちの中でお隣のカリフォルニアからの移住数がかなり増えていることがわかった。
そこで、今月は、この引っ越しの動きを見てみよう。 |

上図:2019年の州別引越し数比較
引越しによるインバウンドが高い州が濃いブルー、中程度が薄いブルー、インバウンドとアウトバウンドが同じ程度の州がグレー。そして、アウトバウンドが高い州が濃い黄色で、注程度が薄い黄色となっている。
資料提供:United Van Lines |
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そもそもアメリカ人の引越しは
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アメリカに住む日本人がよく目にする生活スタイルの違いの一つが、引越しだという。日本は、一般的に定住民族の社会だ。ところが、アメリカでは、人々が一定の住居に長く住んだり、世代を超えて同じ家に住み着くことは稀である。
まず、「実家」という考え方が希薄だ。自分が生まれ育った家に帰省することも少ない。むしろ、自宅は、将来売却することを考えて、不動産投資のように捉えている人も多い。
転居が頻繁なのは、仕事に対する考え方も影響している。いわば終身雇用性がないアメリカ企業では、従業員が常により良い職場を探しており、また、レイオフや解雇も頻繁に行われる環境で、新たな仕事を見つけて州外に引っ越す事は当たり前のように起きている。
それから、アメリカの高い離婚率も転居回数を多くしている要因となる。
また、移民の国アメリカでは、海外から引っ越してきた人たちの多くは、常に、今より良い場所を探している。
こうしたライフスタイルから、全米の人口移動は日常茶飯事の出来事となっている。
日本の国立研究開発法人産業技術総合研究所の調査では、日本人の引越し回数は、一生の内、平均約3から5回。ところが、アメリカ人の引越しは、生まれてから死ぬまでの間、11回から20回と日本人の3倍以上の数に及ぶ。
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引越しで人口を増やす州と減らす州
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さて、ユナイテッド・ヴァン・ラインズ社の調査では、引越しによる人口のプラス・マイナスが明白となった。
インバウンドの最も高い州は、なんとアイダホ州だ。当社が扱った引越し数全体の67.4%という半数以上がアイダホ州への引っ越しだったという。そして、アウトバウンドの最も高い数は、ニュージャージ州で、全体の68.5%という数値が出ている。
インバウンドの第2位は、オレゴン州、そして、第3位がアリゾナ州となっている。
ちなみに、インバウンドとアウトバウンドの数がほぼ同一の州は、メイン州とオクラホマ州となっている。
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カリフォルニアからアリゾナへ |
生活費の高騰、深刻な交通渋滞、高い税金、頻繁に発生する山火事など、ゴールデンステートと呼ばれてきたカリフォルニア州は、住民にとって確実に住み心地が良くない環境となってしまっている。カリフォルニアで家を買うことなどは、もう庶民の手が届かないほど、ほぼ不可能となっているのが現実だ。そこで、カリフォルニアから多州に引っ越しをしようとする人たちが増加の一途を辿っている。2018年だけで、約70万人もの人々がカリフォルニア州から多州に移ったというデータが出ている。
さて、彼らは一体どこに引っ越すのだろうか。答えは、一番がテキサス。そして2番目がアリゾナ州だ。その他、オレゴン、ワシントン、ネバダいった州が多数の引っ越し先となっている。ある統計によると、カリフォルニアからアリゾナに引っ越してくる人の数は、毎年3万人。そして、2017年と2018年は、何と6万人を超えている。
さて、アメリカの大手市場調査企業、エドルマン社が2019年に発表した調査結果によると、カリフォルニア州の住民の62%がカリフォルニア州での生活が素晴らしいという時代は過去のものだと感じている。そして、全体の53%の住民は多州に引っ越しをしたいと考えているという。その理由は、カリフォルニアの生活費が高過ぎると感じているからだ。とりわけ、住宅費は危機状態で、40%の住民がカリフォルニア州の高騰した住宅費が州の経済に悪影響を与えていると見ている。 |
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アリゾナの政治環境にも影響が |
このように毎年膨大な数の人々がカリフォルニアからアリゾナに引っ越すことによって、アリゾナの政治環境にも変化が生じ始めていると報道されている。と言うのは、民主党支持者が多いカリフォルニアの住民が、共和党が強いアリゾナに移ってくるからだ。このことで、選挙の結果に影響を与え、全体像としてのアリゾナの政治環境に変化が現れると見られている。もちろん、共和党支持の人たちもカリフォルニアから引っ越してくるのも事実なので、一概に短絡的な結論は出せない。ともあれ、本年2020年の選挙でアリゾナ州での民主党の躍進を予想する関係者も多い。
ともあれ、今後もこうした傾向は、止まることなく、カリフォルニアからの民族移動はより顕著になっていく可能性が高い。 |