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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

ラムジー・キャニオンの秋

2020年12月号

 アリゾナ州の南端の山々、フワチューカ山塊に流れる小川。その川を囲んで緩やかな谷間ができている。そこが自然保護区域に指定されているラムジー・キャニオンの里である。
 自然保護区に指定された背景には、この地が二つの大きな山脈、そして二つの異なった砂漠環境の交差点となっており、異なった自然が交錯されて、特異な自然環境を提供しているという事がある。
 今月は、このラムジー・キャニオンで秋の景色を見ながら散策してみよう。

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地理的環境

 

カエデの紅葉

 ラムジー・キャニオンは、アリゾナの南東部に位置し、そのすぐ南には、メキシコとの国境がある。ここは、世界に名だたる大きな山脈が二つ交錯している。まず、コロラドのロッキー山脈だが、この山脈は、アリゾナの南西部まで伸びていて、ラムジー・キャニオンの地がその山脈の南端となる。また、もう一つの山脈であるメキシコのシエラマドレ山脈は、メキシコの北西から南東にかけて連なる山脈群で、南端はグアテマラまで達している。その山脈の北端が、アリゾナのこの地となっている。ちなみに、シエラマドレとは、スペイン語で「母の山脈」の意。
 山脈だけでなく、生態系の異なる砂漠が二つ交錯しているのも、また、このラムジー・キャニオンの地である。まずは、メキシコ北部からアリゾナ南西部に広がるソノラ砂漠。そしてメキシコ北東部からニューメキシコ、テキサスと広がるチフアフアン砂漠である。その二大砂漠の接点ともなるこの一帯は、両者の砂漠で生息する独特な植物を一か所で見ることができる。

 

ワニのような皮を持つアリゲータージュニパー。巨大な幹で立ち、樹齢は500年ほど。

   

ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(The Nature Conservancy)

 自然保護を目的に創立されたこの団体は、政府団体ではなく、私的組織の非営利団体である。この団体の発祥は、「アメリカ生態学協会」という学術組織で、1915年にスタートをした。その2年後に、生態学者ビクター・シェルフォードが、協会内で、生態学研究のための自然区域保護委員会を結成し、生態学研究を推進したが、1930年代には、自然保護への運動に力を入れるようになった。すると、協会の中で学術的な研究を進める派と自然保護に焦点を当てる派とが分裂を起こし、この協会は事実上解散することになる。そして、1946年に、シェルフォードと彼の意思を共にする学者たちが生態学者組合を結成する。これが、後に「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」という名前となり、自然の保全と野生動植物の保護を推進する目的を掲げた団体となった。こうして、1951年10月22日にアメリカ合衆国のバージニアに本部を置く非営利団体として正式に出発した。
 ザ・ネイチャー・コンサーバンシーは、北米、中米、南米、アフリカ、太平洋岸、カリビアン諸島、そしてアジアと、誠に広範囲に地球規模の国際保護推進運動を広げている。例えば、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーとメキシコ最大の環境保護団体、プロナチュラが共同で、グァテマラとメキシコ国境に沿った180万エーカー(7,300平方キロメートル)の広大な区域に広がる森林破壊を食い止める運動を起こした。そして、メキシコの連邦政府及び州政府と交渉し地元の環境保護団体などと共同で、2004年11月に37万エーカー(1,500平方キロメートル)のカラクムルの亜熱帯森林を永久的に保護する契約をすることに漕ぎ着けた。
 2007年には、ニューヨーク州の森林地帯161,000エーカー(650平方キロメートル)を買収し、自然保護区とした。また、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーは、インド洋に浮かぶ115島からなる国、セーシェルの海洋環境保護に乗り出し、2015年に海洋保護区とすることを可能にした。

 

 
ラムジー・キャニオンの初期

 

 

 ラムジーの名前の由来は、この地の初期のパイオニアであったガードナー・ラムジーから来ている。同時期にW.H.ラムジーとフランク・ラムジーもここに住んでいたようだが、詳しい情報は見つからない。記録によると、1878年には住民がいたことがわかる。そして、20世紀初頭には、このキャニオンの頂上あたりに炭鉱発掘が始まったようで、当時の炭鉱会社のマネージャーだったハンバーグ(Hamburg)の名前が現在のトレイルの名前に使われて残っている。このトレイルは、坑夫たちが炭鉱に向かう道だったようだ。ある程度の人口があり、1906年から1916年、そして、1925年から1928年の間にこの地に郵便局が設置された。その後、1928年に、炭鉱は閉鎖された。そして、1940年代には、全ての炭鉱関係の器具や備品がこの地から撤去され、今では、ハンバーグ・トレイルという小道だけが、かつての面影を残している。

ラムジー・キャニオンの敷地内で子供たちに環境保護の大切さを教えるプログラムが行われている
米国内務省国立公園局が1965年にラムジー・キャニオンにおける貴重な自然の歴史を認め、国定自然地域に登録したことを記述した碑
生物学者を魅了したキャニオン
尻尾が白い「オジロジカ」が何頭も姿を表す

 20世紀になると、多くの生物学者がこの地を訪れ始めた。そこは、学問上貴重な物がそれこそ山のようにあり、生物学者にとって学術資料の宝庫だった。そこで、1965年に連邦政府は、ラムジー・キャニオンをアメリカ合衆国国定自然地域に指定した。
 この地の地理的環境のユニークな点は、森林で生息するスズカケノキ、カエデ、松などの木々と砂漠で生息するユッカ、サボテン、アガベなどが同じ土地で共生していることだ。また、170種類を超える数々の鳥が飛び交い、蝶が舞い、ヘビ、カエルなどが地上を動く。動物では、マウンテンライオン、ボブキャット、クマ、ラクーン、狐、シカ、リスなどが生息している。昆虫や鳥などの研究にも最適な場となった。

この一帯で100年ほど前に一度死滅した野生七面鳥だが、1980年にメキシコから持ち込まれ、繁殖を始めた
 
坂を登っていくと、高台からシエラビスタの町が一望できる

 

 

かつての住居がそのまま残されている

 

月別ハイライト

ザ・ネイチャー・コンサーバンシーが作成したラムジー・キャニオンのパンフレットには、月別のハイライトが記述されているので、紹介しよう。
9月
夏の渡り鳥のピーク時。ハチドリもたくさん見られる。蝶もピーク時。シルスイキツツキやキクイタダキのような冬の渡り鳥がやってくる時期。
10月
冬の渡り鳥が到来する時期。夏の渡り鳥はハチドリを含めて、姿を消す。シカの角研ぎが始まる。ワニトカゲが姿を現す。木の実が実る。落葉樹の葉が紅葉し始める。
11月
ほとんどの冬の渡り鳥が到着する。哺乳類動物の日中の活動が活発になる。カエデやスズカケヤキの紅葉がピークとなる。
12月
シカが日中によく現れる。マドロンの実がなり、鳥や動物を引きつける。キャニオンの頂上に雪景色が見られる。カワガラスやオオタカが頻繁に、とりわけ頂上に近い場所で姿を現す。
1月
ユキヒメドリ、ウグイス、キツツキなどが姿を現し、オークの小枝やスズケケヤキの枯れ枝などに止まっている。時々、降雪が標高の高い場所からキャニオン全体に見られる。
2月
イヌワシが巣作りを始める。冬に強いカタジロアメリカムシクイ、ルリノドシロメジリハチドリが飛び交う。メギ、ヤナギ、マンザニタが花を咲かせる。そこに蝶が集まる。
3月
夏鳥が戻り始める。蝶の活動が活発になる。巣作りを始める鳥が現れる。

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