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このページに掲載されている記事は、月刊じょうほう「オアシス」誌の記事を出版後に校正し直したものです。

廃水利用プロジェクト、ギルバート・ウォーター・ランチ

2014年4月号

 水は有限である。とりわけ、砂漠地帯に住む私たちにとって、水の確保は、私たちの生存を決定する最重要事項である。近年の深刻な干ばつと急速な人口増加は、私たちの未来を脅かす大きな課題となっている。各地で真剣にその対策に取り組む姿が見られるようになった。
 さて、ある一大プロジェクトを行っている町がある。人口30万人ほどのこの町、ギルバートだ。ギルバートは、早くから排水利用のプロジェクトに取り組んできた。
 市内にある100エーカーの大地にうっそうと茂る木々。敷地内の池には水鳥が群がる。一見、大規模な公園のように見えるが、これこそギルバート町が作り上げた廃水プロジェクトなのだ。今月は、ギルバート・ウォーター・ランチ(Gilbert Water Ranch)を歩きながら、町の水戦略を見てみよう。

アリゾナの地下水

 

 アリゾナには、コロラド川を始め、いくつかの川河川水が農園、工場、そして一般家庭に送られいる。州内で使われている水は、その39%がコロラド川から用水路を使って送られてくる、いわゆるCAP(セントラル・アリゾナ・プロジェクト)を源としている。さらに、アリゾナ州の40%は地下水を水源としている。アリゾナの大地の下には、何百万年もの間に形成されてきた巨大な帯水層がある。
 ところが、近年の加速度的な人口増加で、地下の貯留量が急速に減少し始めているのが確認された。地下水位が低下すると、地盤沈下など大きな問題が起こるかもしれない。また、枯渇などしたら、それこそ水源回復の余地がなくなる。

   
ギルバートの排水再利用

 1987年、ギルバート町は、ニーリー排水処理工場を建設し、全町の下水再利用を始めた。処理のプロセスは、まず、排水を砂フィルターに通す。これで水の中にある重金属をのぞく。そして、自然バクテリアと炭酸ガスで硝酸塩をのぞく。この処理が終わると、水は灌漑用に再利用されるか、もしくは、さらに地面に戻して濾過処理を行う。濾過処理を通過した水は、地下に入り、帯水層に戻るという仕組みだ。
 つまり、地下水がくみ上げられて、使用された後、処理過程を経て、再び地下に戻っていくというシステムである。これをリチャージと呼ぶ。こうして、帯水層の水が枯渇することを防ぐわけだ。
水処理の効果は水だけに終わらない。水を地面に戻すと、そこに池ができ、植物が繁殖する。すると、野鳥などがやってくる。これは、思いもよらない副産物だった。

   
町の成長とウォーター・ランチ

 1990年代になると、ギルバートの町が急成長を始めた。そこで、廃水利用の需要が急増する。そこで、ニーリー工場よりさらに東に大規模な地下水リチャージの施設を作ることになった。1998年、ギルバート・ウォーター・ランチが完成した。そして、翌年の1999年からリチャージの行程が開始された。ギルバート町は、排水の100%再利用を目標としている。
 このウォーター・ランチは、約10エーカーの大きな池が7カ所設けられ、廃水処理工場から送られてくる水がこの池に入り込んでいく。池はもちろんコンクリートなど使っていないので、普通の土砂で囲まれているものだ。水は徐々に土砂の底から地下におりていく。この過程で水が濾過処理されていく。池の周辺には、コットンウッドなどの木々が繁殖し、野鳥が集まる。池には魚が入り込み、水鳥のえさとなる。水が地下におりた後も、魚の卵などが大量に残るので、鳥にとっては天国のようなものだ。
ここは、一般市民に公開され、野鳥愛好家や家族連れで毎日にぎわっている。また、天文台も常設され、週末の夜は無料で夜空を楽しめるようになっている。
ちなみに、ここで生息が確認されている鳥は、200種を超えている。
 まさに廃水処理の副産物が市民の憩いの場となり、地方自治体の水処理政策として、成功している例である。

 

 

 

天文台の中の望遠鏡は、SRP社の寄付
毎週金曜日と土曜日の日没後から午後9時半までオープン

住所:2757 E. Guadalupe Road, Gilbert
開園時間:フィッシングレイクという釣りができる人工の池が図書館の横にある。ここは、夜明け前から夜の10時までオープンしている。
保護区域と呼ばれている7つの池の周辺は、夜明けから夕暮れまでオープン。つまり、時間の指定ではなく、日没前、少々空が明るくなるころから日没後、まだ空に薄明かりが残っているころまで。
その他情報は、ウェブにて。