ナバホの精神的混乱

 ある日、北アリゾナに写真を撮りに行く予定にしていると、それを知った友人が、ナバホ・ネーションに住む知人に会ってくれと頼んできました。その知人というのは、州高速道路89号をまっすぐ北に向かって、ペイジに行く途中にあるツーバシティとい小さな町に住んでいるとのことでした。

 僕は了解し、住所をくれるように頼みました。

 そこで、初めて知ったのですが、ナバホ・ネーションの中には、道路の名前も住所の番号もないんです。この人の家は、その行き先を書いた紙に従って訪ねる以外、方法がありません。その行き先というは、ガソリンスタンドが見えたら、左折し、しばらく行くと、大きな松の木があるので、その前を右に行き、黄色い壁の家が見えたら、左折をし、その先にある青い屋根の家が彼の家、というものでした。

 幸いにして、彼の家が見つかり、辿り着きました。

 彼は、40代の独身男性。ナバホ族として、生まれ育ちました。

 彼は、自分が精神的に困惑した状況を、長い間経験してきたと言いました。そこで、どんなことかと尋ねると、このような経緯を話してくれました。

 彼は、小さい頃から、おじいちゃんとおばあちゃんから色んなナバホ伝統の話を聞かされてきました。そして、ナバホが信じてきたものが当たり前と思っていました。あの山は神。この川は神。この木々は神。周囲の自然のあらゆるものに神を見つけ、神聖なものとして崇めていました。

 ところが、近くに教会ができ、そこに行くように言われました。教会では、神は唯一絶対神で、その神以外に神はいないと言うのです。つまり、白人がキリスト教の教えを強要してきたのです。そこで、神は、唯一というように信じていきました。そして、高校卒業と同時に、米軍に志願しました。志願すれば、教育を受けることができます。フェニックスなどの都会に行って、大学に入るには、資金が足りません。

 米軍に入隊すると、今度は、国家への絶対忠誠を教わりました。そして、何年か後に、退役し、再びナバホ・ネーションに戻ってきたのです。

 そこには、小さい頃聞いたナバホ伝統の教えがありました。しかし、彼は、この経緯の中で、精神的な混乱をどう克服したら良いか回答が出ませんでした。彼は、完全にアメリカ人となれず、完全にナバホにもなれないのです。

 そこで、アルコールに手を出し、精神の空白を酒で埋めようとしたのです。

 僕が彼の家に伺った時は、彼は、アルコールから抜け出て、何かを求めていたようです。

 先住民の間には、このような精神的苦渋が慢性的に広がっています。白人たちが来る以前から、この地で生活をしていた先住民が、白人の侵略によって、その伝統思想や伝統宗教、伝統文化を剥ぎ取られてしまった人々です。