驚異の進化、サボテン

 僕がアリゾナに来て、いつも深い関心を持つのは、多種多様な形をしたサボテンです。アリゾナの砂漠は、ソノラ砂漠といって、独特な植物がたくさん繁殖しています。ジリジリと照りつける太陽光線、カラカラに乾いた空気、高温が長く続く夏の日々、突然襲ってくるモンスーンの嵐など。この厳しい環境に生き残るために、生物は、独特の形を作り上げて、繁殖してきました。

 特に、サボテンは、丸いものから、細長いもの、横に広がるものから、縦に伸びるものなど、その種類は300ほどあるようです。

 また、サボテンが咲かす花の色鮮やかなことは、驚くばかりです。

 このサボテンですが、自然の厳しい環境から少しずつ進化してきて、今の形になったのです。

 ここアリゾナは、かつて、熱帯原生林だったのです。「ジュラシックパーク」という映画で有名になった「ジュラシック」は、本当に昔の時代、「ジュラ紀」を意味します。ジュラ紀は、約2億年前の時代で、「ジュラシックパーク」の映画に登場した恐竜が地球を制覇していた頃です。

 アリゾナもその頃、恐竜たちがのし歩いていて、熱帯原生林だったのです。今のアリゾナからは信じられないことですが、実際、アリゾナのある広大な砂漠に、多くの恐竜の骨やその当時の大木の化石が見つかり、国定公園に指定されている場所もあります。

 こうした普通の木々や植物も、環境の変遷に対応して、進化をし続けてきました。

 サボテンがその良い例です。

 植物の葉は、太陽光線を受けて光合成をしていますが、強烈な太陽の光が照りつける砂漠では、葉の面積がどんどん縮まり、棘になったんです。

 僕は、写真撮影のために、砂漠を歩いていて、棘が手や足に刺さった経験が何回もあります。とても痛いです。そんな時のために、消毒薬とバンドエイドを欠かさず、持って歩きました。また、靴に刺さってしまった時は、自分の手で引っ張ることができないので、いつも、ペンチをバックパックに入れて、いざという時に使いました。

 面白いのは、また、大変危険なのは、ジャンピング・チョヤと呼ばれるサボテンです。ジャンピングという名前ですが、実際、ジャンプする訳ではありません。でも、極めて鋭い長く伸びた棘がいくつも出ていて、近くを歩いている動物(人間も含めて)が、少しでも接触すると、そのサボテンの一部が簡単に本体から離れ、動物の体に着いちゃうのです。しかも、この棘がしっかりと動物の肌の中に入り、簡単には離れません。

 僕も、一度、この恐怖の一瞬を体験しました。厄介な棘は、やはり、ペンチから何かを使わないと取れません。

 では、なぜ、このような形になったのでしょう。これは、自然の知恵というか、生存への力というか、素晴らしい進化の結果です。

 どんな植物も、子孫を残し、繁殖を続ける必要があります。ジャンピング・チョヤは、動物の体に着くと、動物が動くままに、遠くに行くことができます。そして、ある時、動物の毛皮から離れると、その場で、根を張って、さらに伸びていくのです。痛い目を見る動物には、かわいそうですが、厚い毛皮に覆われていれば、大丈夫でしょう。ただ、人間は、そういう訳にはいきません。十分気を付ける必要があります。

 このような、サボテンに大変魅力を感じ、いろんな写真を撮ってきましたが、何と言っても魅了する美は、サボテンの花です。

 長い進化の中で、花は、まるでサボテンの勝利を宣言しているように、神々しく感じます。どんなに環境が厳しくても、こんなに美しい花を咲かせるのだと、自慢しているようなサボテンを見て、たくましく生きる力が伝わってきます。

 近年は、地球温暖化が進み、サボテンも生死を左右するような状況に立たされていると、新聞などで報道されています。アリゾナの象徴であるサボテンに、さらにたくましく生きてもらいたいと願います。